2021 Fiscal Year Research-status Report
Genealogy of Monarchism in the Russian Churches: From ROCA to Tsarebozhiniki
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17KK0019
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
高橋 沙奈美 九州大学, 人間環境学研究院, 講師 (50724465)
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Project Period (FY) |
2018 – 2022
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Keywords | ロシア正教会 / ディアスポラ / 聖人崇敬 / 宗教社会学 / ナショナリズム |
Outline of Annual Research Achievements |
ロシア帝国最後の皇帝ニコライ二世とその一家は、ロシア革命後の1918年にエカテリンブルクにてボリシェヴィキによって銃殺された。皇帝一家に対する崇敬は、亡命ロシア人の間で始まり、1981年にニューヨークに本部を置く在外ロシア正教会によって列聖された。 今年度は、ドイツでの在外研究で得られた資料を中心として、査読論文を投稿することができた(高橋沙奈美、「皇帝が捧げた命―在外ロシア正教会におけるニコライ二世崇敬と列聖」『ロシア史研究』第107号、2021年、30-54頁)。 これにより、第一に在外ロシア正教会におけるニコライ二世列聖の意味について明らかにすることができた。それは政治的なアピールであると同時に、ロシアの復活という神秘的意味合いを含んだ宗教的行為であった。第二に、在外ロシア正教会を中心としたニコライ二世崇敬の発展と、ロシア国内での活動、とりわけ戦後の異論派正教徒(G.ヤクーニン神父やD.ドゥトコ神父)の運動と在外ロシア正教会のつながりを明らかに示すことができた。ここでは、ニコライ二世の復活は、旧体制へのノスタルジーであるというよりもむしろ、ソ連宗教弾圧によって命を奪われたすべての者に対する追悼と、その筆頭としてのツァーリという位置づけが重要であったことを確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は、ニューヨークの在外ロシア正教会のアーカイヴあるいはモスクワの図書館やアーカイヴで資料収集を行うことを予定していたが、新型コロナウィルスの拡大感染が継続したため、渡航を断念した。そのため、来年度も継続してこの研究課題を継続することとしているが、ロシアでの調査はウクライナ戦争が勃発した関係で引き続き困難であることが予想される。資料収集が困難な場合は、当初の研究計画を見直して、現代ロシア・ナショナリズムとニコライ二世崇敬の問題を関連付けて検討することも有効であると考えている。 ただし、これまでに得られた知見を査読論文に投稿できたことは、大きな成果であった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も引き続き、ニューヨークの在外ロシア正教会のアーカイヴにおいて、異論派正教徒との書簡や、ペレストロイカ期以降の本国正教会とのやり取りについての資料収集を行う機会をうかがう。 国外渡航が難しいようであれば、近年のロシア国内におけるニコライ二世崇敬の再評価について、ロシア愛国主義との関連から明らかにすることを目指す。その際、用いる資料はインターネット上の記事やブログなどを中心とするため、ロシア国内での調査は不要となる。 いずれかの調査結果を学会で報告し、年度内に一本の論文として発表することを目指す。
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Research Products
(2 results)