2019 Fiscal Year Research-status Report
大型プラズマ風洞を用いた再突入ブラックアウト低減化研究の深化と加速
Project/Area Number |
17KK0123
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
高橋 裕介 北海道大学, 工学研究院, 助教 (40611132)
|
Project Period (FY) |
2018 – 2020
|
Keywords | 惑星大気再突入 / 通信ブラックアウト低減化 / 表面触媒効果 / プラズマ中の電磁波伝播 / フィルムクーリング |
Outline of Annual Research Achievements |
大気再突入時に高温プラズマに包まれた宇宙機が、地上局やデータ中継衛星との通信途絶現象(通信ブラックアウト)に陥ることは大きな問題である。その一方で、再突入機近傍のプラズマ諸量分布や電磁波挙動の正確な予測が難しく、通信ブラックアウト低減に繋がる知見の探索が困難な状況である。したがって、この問題を回避・緩和するために通信ブラックアウト低減化技術は必要である。いま表面触媒性を用いた宇宙機後流プラズマ密度低下を利用することによる通信ブラックアウト低減が提案されている。本研究では表面効果による通信ブラックアウト低減化メカニズムおよび低減化技術の指針を見出すことを目的とする。 本年度では、ドイツ航空宇宙センター(DLR)に滞在し通信ブラックアウト低減化の研究を実施した。DLR研究者との議論の中で、これまで取り組んできた表面触媒性とは別のメカニズムを利用した新しい通信ブラックアウト低減化手法を提案した。これは冷却ガスを再突入機表面から噴出して空力加熱低減する技術(フィルムクーリング)を応用したものである。とくにここではフィルムクーリングによる低減化の実現可能性を数値解析的手法によって調べた。 本課題の基課題となる研究課題 (若手研究B17K14871)では表面触媒性による通信ブラックアウト低減化の実験的実証を行った。このメカニズムを本研究課題では数値解析的手法によって次の通り明らかにした:(1)表面触媒によって生じる分子が再突入機後流に流出する。(2)後流において分子の増加が原子種の不足を招く。(3)原子種を補う方向に電子の再結合反応が促進することで、電子が低減する。(4)電子の低減によって通信電波の伝播が緩和される。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本課題の基課題となる研究課題(17K14871)では表面触媒性による通信ブラックアウト低減化の実験的な実証がなされた、このメカニズムを本研究課題において明らかにしている。それにより低減化効果は宇宙機の再突入環境と地上実験設備のプラズマ風洞環境いずれにおいても同じメカニズムで生じることがわかった。地上実験設備は装置の制約から必ずしも実際の環境を再現できない場合もある点から、この知見は重要となる。すなわち今後の研究においてもプラズマ風洞を用いた低減化実験は有効である。 海外研究機関DLRに滞在中に新しい低減化手法を提案した。現在においては数値解析による実現可能性の調査にとどまっているが、さらに詳細な数値解析、条件を何通りにも変更して低減化挙動を調べるパラメトリックスタディ、またプラズマ風洞を利用した実験的実証も行うことで新しい低減化手法を提案・深化することが可能になった。
|
Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウイルス感染症拡大防止方策により海外移動・滞在が厳しく制約される状況であるが、国内に設置されている大型プラズマ風洞や数値解析的アプローチ、海外研究機関の共同研究者との連絡を密に取っていくことで、下記の研究内容を推進する。 (1)JAXA宇宙科学研究所1MW アーク加熱風洞を用いてプラズマ気流を生成し、通信装置を内蔵した試験模型を用いて通信ブラックアウト低減化の深化を実施する。本年度までは高触媒・低触媒1つずつのケースを対象とした実験を実施したが、ここではより様々な材料を対象とし触媒能をパラメータとしてどのような低減化効果が現れるか定量化していく。合わせてこのときのメカニズムを数値解析的手法によって調べる。 (2)海外研究機関(DLR)において提案したフィルムクーリングによる通信ブラックアウト低減化の研究深化を実施する。フィルムクーリング技術ではガス噴出機器などが必要となるため、表面触媒効果と比べてどうしても大型化・高重量化となる。これをできる限り軽量化・簡略化するために、より詳細な数値解析やパラメトリックスタディを実施する。ここで得られた知見はDLR研究者と共有し、DLRプラズマ風洞を用いた実験的実証の実現可能性の評価にも用いる。 (3)本課題を通して表面触媒性を用いた通信ブラックアウト低減化は数値的・実験的に実証されつつある。将来のステップとして重要なのは実飛行試験による実証である。それには超小型衛星などを利用した再突入試験が必要となるが、このミッションデザインについて数値解析等を利用して行っていく。このときに、様々な触媒性を有する材料を貼り付けたケースの数値解析モデル作成を行い、数値解析による通信ブラックアウト低減化を実施する。
|
Research Products
(6 results)