2017 Fiscal Year Research-status Report
回転分子モーター制御機構解明への再構成的アプローチ
Project/Area Number |
17KT0026
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
川岸 郁朗 法政大学, 生命科学部, 教授 (80234037)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
西山 雅祥 京都大学, 化学研究所, 研究員 (10346075)
北尾 彰朗 東京工業大学, 生命理工学院, 教授 (30252422)
今田 勝巳 大阪大学, 理学研究科, 教授 (40346143)
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Project Period (FY) |
2017-07-18 – 2020-03-31
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Keywords | べん毛モーター / 回転制御 / 走化性 / 圧力 / 蛋白質間相互作用 / 蛋白質構造 / MD |
Outline of Annual Research Achievements |
CheYによる回転方向制御の解明を目指し,大腸菌に圧力という変調をかけ,その影響を調べた.走化性野生株のべん毛回転は,約50 MPa程度で反時計回り(CCW)に固定された.常圧でリン酸化非依存的に時計回り(CW)回転を引き起こす変異型CheY を発現した株でも80 MPa程度ではほぼ0に低下した.この結果から,高圧力によりCheYリン酸化レベルが低下するものではなく,CheYとモーターとの相互作用が低下することが示唆された.また,CheYの標的であるモーター蛋白質FliMに,CheY非依存的CW回転を引き起こす変異を導入すると,高圧力下でもCCW回転を引き起こさなかった.さらに,MDシミュレーションによりCheYとFliMの結合に対する圧力の影響を解析したところ,100 MPaで解離することが示された.そのエネルギー変化は,実験からの推定値とよく一致した.以上の結果より,べん毛モーターの回転制御の決定的ステップCheY-FliM相互作用に関して新たな知見が得られた. 一方,1本の極毛をもつコレラ菌は,数本の周毛をもつ大腸菌とは異なる走化性行動を示す.その行動パターンから,コレラ菌ではCheYとFliMとの結合親和性が低い可能性が考えられた.これを検証するために,コレラ菌キメラFliMを大腸菌に発現させてべん毛の回転を計測し,CheY発現量と回転方向の関係を求めた.キメラFliM発現菌では,CheYの発現量増加に伴ってCW回転する割合の上昇は,高い協同性を示していた.次に,キメラFliMの大腸菌由来部位をコレラ菌の対応するアミノ酸残基に置換すると,CheYとFliMとの結合親和性は変化しなかったが,協同性が低下することを見出した.これらの結果は,コレラ菌においてFliMとCheYの結合協同性が低いことを示しており,べん毛モーターの回転方向を切り替えて走化性応答を実現する分子機構に示唆を与えるものである.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
CheYによる回転方向制御に対する圧力の影響に関しては,順調に研究が進んでいる.MDシミュレーションの結果が,実験結果とよく一致した.予備的実験ではCheY結合による速度低下と見られた現象が,回転方向変化の頻度上昇によるものであることもわかってきた.そのため,蛍光標識CheYを用いた解析や膜の流動性を変化させる実験よりも,これまで行った解析の精緻化を優先し,成果をまとめる方向で進めている. また,構造解析については,蛋白質発現系を作製したが,コレラ菌,海洋ビブリオ属細菌における機能解析ができておらず,現在その原因を調査中である.一方,モーター回転制御の引き金となるコレラ菌受容体の構造解析において非常に興味深い現象が見られたため,そちらの解析を優先した.
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Strategy for Future Research Activity |
まず,CheYによる回転方向制御に対する圧力の影響に関する実験とMDシミュレーションに関して,データを再取得するなどしたうえで,論文をまとめて投稿する. また,大腸菌-コレラ菌キメラモーターを用いた解析を進めていくとともに,他の細菌とのキメラモーターの解析も試みる. さらに,コレラ菌・海洋ビブリオ属細菌における異種蛋白質同時発現の問題点の検討を進め,構造解析に向けて研究を遂行するとともに,CheYにより回転速度が制御される海洋ビブリオ属細菌側べん毛モーターの解析も進める.
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じたおもな理由は,「現在までの進捗状況」に記したように研究結果に応じて計画を変更したこと,および実験補助者を選定できなかったことである. 次年度には,実験補助者を採用するとともに,実験計画を組み直して使用したい.
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Remarks |
平成28年度日本生物物理学会学生発表賞(高橋洋平)
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