2021 Fiscal Year Research-status Report
社会的ヘテロフォニーとしての漫才対話~オープンコミュニケーションの超分節性の解明
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17KT0143
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
岡本 雅史 立命館大学, 文学部, 教授 (30424310)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
阪田 真己子 同志社大学, 文化情報学部, 教授 (10352551)
細馬 宏通 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (90275181)
大庭 真人 慶應義塾大学, 政策・メディア研究科(藤沢), 研究員 (20386775)
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Project Period (FY) |
2017-07-18 – 2023-03-31
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Keywords | 漫才対話 / インタラクションリズム / 非流暢性 / 遠隔コミュニケーション |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究実績は以下のとおりである。 まず、代表者岡本は、日常対話と漫才対話をインタラクションリズムの観点から比較し、両者に共通するリズム維持のメカニズムについて明らかにした。一方、遠隔コミュニケーション環境やTVドラマといった日常会話場面とは異なるインタラクション環境に目を向け、発話重複やフィラー等の非流暢性が日常会話とは異なる生起傾向や回避戦略が観察されることを明らかにした。さらに、本研究課題のアウトリーチの一環として、NLP2022で漫才のボケとツッコミに関する最新の研究動向と本研究課題を遂行する上で得られた知見をチュートリアル講演として行い、情報工学系の研究者を中心に多くの関心を集めた。 分担者阪田は、オープンコミュニケーションのメタ的な側面に着目し、「漫才師と場を共有している観客」(映像中)の存在と、「自身と場を共有している観客」(同一空間)の存在が、視聴者の心理・行動に与える影響を確かめる実験を行った。実験の結果、映像中の観客の存在の方が共感チャネル的な機能を強く発揮することが確かめられた。 分担者細馬は、村岡春視とともに、お笑い芸人のオンライン・ミーティングにおける同期とオーバーラップの問題を分析した。特に、遠隔コミュニケーションにおいて、送信に伴うレイテンシが発話のタイミングにどのような影響を与えるかを図式化し、芸人どうしがこの問題をどう局所的に解決するかを、実際の事例を分析することで明らかにした。 最後に、分担者大庭は、漫才対話におけるインタラクションリズムの指標として用いるため、漫才演者2名間の脈動の同期についてデータを分析を進めた。さらに、演者間における脈動の推移と、観客における脈動の推移・変化を観察することにより、漫才中に両者の相互作用がどのように展開されるのかについて動的メカニズムの分析結果をまとめている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度も、長期化する新型コロナ禍により、実施予定であった漫才対話の新規収録を断念するとともに、公開シンポジウムの開催も次年度に延期せざるを得なくなったため、やむなく研究期間を再度延長することとなった。そうした状況下で、各人の研究関心はオープンコミュニケーションの遠隔コミュニケーション環境における実態やそれに伴う非流暢性の動態、さらにはオープンコミュニケーションのメタ的側面などに展開されてきた。対外報告が叶わず現在進行中の研究も含まれているが、本研究課題の射程が広がりを見せることで、さらなる研究展開の道筋が浮き彫りになったことを鑑み、上記の評価とした。
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Strategy for Future Research Activity |
改めて最終年度として仕切り直した2022年度は、(1)既収録音声・映像データ整備の完了、(2)最終成果報告会としてのシンポジウムの開催、の2つを実施することで、本研究課題の鍵概念である《オープンコミュニケーション》の射程を拡大する方向性を示すことを主眼とする。 上述したように、本研究課題の成果を中心にチュートリアル講演を代表者岡本が行ったことで、情報工学分野の研究者にとってもオープンコミュニケーション概念は有益なものであることが確かめられた。特に、新型コロナ禍の継続に伴って、これまで以上にYouTubeに代表されるソーシャルメディアにおける情報発信やZoom等を利用した遠隔コミュニケーションが日常的なものになってきたことから、対話によって外部の視聴者やオンライン参加者に対して情報を伝達するオープンコミュニケーションはその存在意義をますます大きなものとしている。 そうした背景から、22年度6月に同志社大学で実施予定の公開シンポジウムでは、本研究課題で中心的に取り扱ってきた漫才対話の研究に加えて、YouTubeで人気を集める対話型解説番組やInstagramやTikTok等で行われるリモート生配信などの分析に基づいた、オープンコミュニケーションと遠隔コミュニケーションの重なり合いについても論じたいと考える。特に、従来のオープンコミュニケーション概念が二者間の対話形式を基盤として創案されたものであったのに対し、一人の配信者によっても〈リアクション〉と〈レスポンス〉を通じて擬似的な対話形式を取り得ることを示すことで、今後のオープンコミュニケーション研究の広がりについてのアウトリーチとする。
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Causes of Carryover |
次年度使用額に関しては、今年度に予定していた公開シンポジウム開催の費用分のみを次年度に繰越している。内訳としては、ハイブリッド開催に伴う配信費用、ならびに招待講演者の謝金に充当することで全て消化される見込みである。
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Research Products
(7 results)