Research Abstract |
側脳室周囲の「脳室下帯」では,終生ニューロンの産生が行われている。産生された幼若ニューロンは,嗅球へと移動し介在ニューロンに分化するが,グリアや神経突起の発達した成体脳を移動するには,胎生期と異なった独自の機構が存在すると考えられている。また,外傷・疾患などによりニューロンが脱落すると,これらのニューロンの一部は傷害部に供給される。これは,成体脳にも失われた神経回路を再生しようとする機構が存在し,脳室下帯がその中で重要な役割を果たしていることを示すものである。 我々は,平成19年度の研究によって,細胞の移動に不可欠な細胞骨格系の制御に関与する分子Cdk5が,嗅球に向かう幼若ニューロンの鎖状連結の形成や移動の方向性・速度の制御に重要であることを見出した(Hirota, et. Al.,J Neurosci,2007)。また,反発性のガイダンス分子Slitが,嗅球へと移動する幼若ニューロンの周囲組織との相互作用に関与しており,この分子の欠失によって移動速度が顕著に低下することを明らかにした(未発表)。我々は梗塞巣へと移動する幼若ニューロンの多くが血管壁に沿っていることを示したが,増殖抑制剤により一過性に幼若ニューロンを除去し,嗅球への移動経路(RMS)の再生を観察する実験や,幼若ニューロンと血管を蛍光標識してタイムラプス撮影により解析する実験から,血管壁が幼若ニューロンの移動の足場として重要な役割を果たしていることを示唆する結果を得ている(未発表)。 成体脳における幼若ニューロンの移動制御機構には,不明な点が多い。上述した本年度の研究成果は,幼若ニューロンの移動制御における細胞外環境との相互作用の重要性を示唆するものであり,これを更に究明することにより,傷害脳へと新生ニューロンを誘導して修復・再生を促進する新たな治療戦略の開発につながる重要な知見が得られると考えている。
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