Research Abstract |
本研究では,(1)電子状態理論と分子動力学(MD)法を組み合わせた非経験的分子動力学(AIMD)法を方法論的に発展させ,応用可能な新しい研究対象を提供すること,(2)原子核と電子の波動関数を同時に求める理論の拡充による原子核の量子効果を考慮したダイナミックスの発展を目指してきた。本年度は,AIMD法と組み合わされる大規模電子状態理論計算に関する高速化として,dual-level DC-MP2の開発を行った。実際,10残基のβストランド型グリシンペプチドの計算では,昨年度開発した方法よりさらに4倍程度高速化されることが確認された。NOMO法に関しては,密度汎関数理論(DFT)に拡張することにより,低コストでかつ高精度な理論開発を行った。このNOMO/DFT法をN_2H_7^+という系に応用することで,従来法では記述が困難な振動結合状態を理論的に求めることに成功した。実在系に対する応用計算として,光化学治療における単官能性ソラレン化合物の理論設計を検討した。3重項励起状態において8-メトキシソラレン(8-MOP)ではピロン環の一部が開裂した開環構造のみが安定で,その構造では付加反応部位が単結合化しているため,光治療に好ましくない2段階目の反応が進行しにくいことを明らかにした。さらに,8-MOPのメトキシ基を数種類の置換基に置換して電子状態を比較した結果から,8位に電子供与性の置換基を付加することで励起状態での開環構造が誘導できることを理論的に予測した。計算結果の効果的な解析手法としては,我々が先に提案したエネルギー密度解析(EDA)をさらに発展させ,電子相関法にも適用できるようにした。さらに,結合エネルギー密度解析(Bond-EDA)を用いて10-S-3スルフラン誘導体における結合エネルギーの評価を行い,超原子価化合物の化学結合に関する定量的な知見を得た。
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