Research Abstract |
「てんかん」とは,突然発作がおき,その発作を繰り返す大脳の慢性的な病気である.その発生メカニズムは,詳しくはまだ解明されていない.この発作を抑制するのに,脳を冷却することの有効性が既に報告されており,局所冷却(脳表面で4mm角)のためにペルチエ効果を利用した冷却装置も開発されている.しかしこの方法では,ペルチエ効果の冷却能があまり大きくないので,急激な冷却や,微小な冷却装置によるミクロな領域の冷却が困難である. もし,冷却能のより大きい方法が採用できれば,脳のミクロな領域にダメージを与えることなく,「てんかん」発作の原因となる神経細胞群の凍結融解壊死を可能にする.壊死した細胞は数週間後には生体内に吸収されてしまうので,極めて自然な治癒が期待できる. 本年度は,真鍮をプローブ材料とし,液体窒素を冷媒とするマイクロフリーザーを試作した.これは,先端がおよそ200μm,根元が約22mmの同心二重構造のプローブで,スイッチにより適量の液体窒素を先端部に注入・気化させることができるので,先端部が気化熱を奪って,急激にその温度が低下する. この試作マイクロフリーザーの先端部は,わずか3秒間で室温から-20℃に降下させることができ,40〜50秒で室温に戻った.したがって極めて高速の凍結・融解が可能となり,かつ狭い領域のみを選択的に壊死させることができた.具体的な実験として,ラットの海馬を用いてその性能を確認した.海馬スライスのmossy fiberを剌激してCA3から誘発電位(「てんかん波」)を確認し,その後CA3を凍結融解壊死させた.その際,CA3を含む約1mm程度の白く変色した凍結領域が顕微鏡下で確認できた.その後のCA3では常温に戻しても,2度と「てんかん波」を誘発させることができなかった(すなわちこの部位は凍結融解により破壊された).さらに,凍結融解壊死させた領域近くのSchaffer collateralを刺激してCA1で誘発電位を記録することができた.すなわち,CA1とその近傍を破壊することなく,CA3のみを選択的に破壊することに成功した.
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