2006 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
18500757
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
藤垣 裕子 東京大学, 大学院総合文化研究科, 準教授 (50222261)
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Keywords | 科学者の責任 / 説明責任 / 科学技術社会論 / 社会的責任 / 妥当性境界 / 科学技術倫理 / 科学コミュニケーション |
Research Abstract |
本研究課題の目的は、現代の科学者の社会的責任論を構築することである。「科学者の社会的責任」の内実は時代とともに変容してきた。19世紀後半から20世紀前半にかけては、科学の諸成果による国家の繁栄に科学者が責任を負うことが謳われたのに対し、20世紀後半、戦後になると科学の維持と発達に対する責任、科学の利用(悪用)に対する責任が問われるようになる。現代の責任論は、原爆を作った物理学者の責任論にとどまらず、生命科学、食品安全にかかわる諸科学、環境科学など範囲も多様化している。本研究では、まず専門主義の源泉について考え、次に現在科学と社会との間でおこっている公共的課題の特徴を整理する。この2つの考察をもとにして、現代の「科学者の社会的責任」論の特徴を整理する。現代の責任論と、上に述べたような過去の責任論の違いとは何だろうか。あるいはこれらの責任論の展開の、欧州と日本との違いは何だろうか。これらを期間中に明らかにすることが、本研究課題の目的である。 平成18年度は、まず関連文献を収集し、責任をめぐって「応答可能性」に注目する倫理学関係の文献にあたり、科学者の社会的責任論との相違を検討した。さらに、日本学術会議主催の先端科学シンポジウムにおいて、生命科学、化学・生化学、地球科学・環境学、数学・応用数学・情報科学、材料・生命材料科学、神経科学・医学、物理学・天体物理学の各分野の最先端の研究を行う研究者に、現在の社会的責任をどう思うかについてのインタビューをおこなった。また、責任を議論する枠組みの1つとして各分野の「妥当性境界」(専門誌論文の掲載諾否をめぐる境界のこと。多くの研究者はこの妥当性境界から、自らの分野の責任について考える)についての英文の論文を用意し、その英文校正をおこなった。 以上の平成18年度の研究活動から、科学者の社会的責任論のなかに、現代では、科学コミュニケーションの課題が増えてきていることが示唆された。「いかに正しく伝えるか」「どうしたら誤解されずにすむか」「どうしたらイメージギャップ、コミュニケーションギャップをうめられるか」といった問いがふくまれる。これらは、公共から予算をもらって研究を実施することの正当性を説明する責任、研究のなかみを公共にわかりやすく説明する責任にかかわることである。今後は、科学者の社会的責任論と科学コミュニケーション論との関係についてさらに検討をすすめる予定である。
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Research Products
(1 results)