Research Abstract |
ユーラシア大陸北東部に位置するロシア・バイカル湖やモンゴル・フブスグル湖の堆積物コアから読み取れる種々の指標は,過去から現在に至る大陸内部での環境変動理解の重要な情報を提供する。これまでは,バイカル湖の堆積物についてウラン・トリウム同位体の変動を指標に,これら元素の沈積・堆積挙動と気候変動との応答を検討してきた。今回は,フブスグル湖の堆積物について,両元素の堆積挙動と気候変動との応答を検討した。フブスグル湖は,大きな流入河川は無く,バイカル湖と比べて標高は1000m以上高く,容積(383km^3)は1/60である。この地理的条件が,日射量変動や湖水面変動などこの地域の環境変動に対する鋭い応答を期待させる。 今回,2004年に湖の最深部付近250m深さから掘削した81m(HDP-04)コアを用いた。コアは表層から3cm毎に切断した。堆積物組成(成炭酸塩,Fe-Mn酸化物,Bio-SiO2,鉱物)を測定後,試料(350個)の一部を全分解し,化学分離・精製後,U/Th同位体をα線スペクトロメトリーで定量し,以下の成果を得た。 1)氷期にCaSO_4,CaCO_3が多く堆積しているのがこのフブスグル湖の特徴である。 2)U-238(U-234)濃度は,19? 230Bq/kgまで幅広く変動した,一方,Th-232は変動が少なく,陸源物質の組成には大きな変動が無いことがわかった。 3)酸素同位体ステージ(OIS)でOIS5に相当すると思われる堆積層の幾つかについてU-Th年代による堆積年代をアイソクロン法を適用して年代を決定した。この年代は,C-14年代および古地磁気法で推定した年代ともよく一致した。 4)23.84m深さ試料で,異常に高いU濃度を検出し,この異常ピークが断層の存在を示唆した。 5)全体として,堆積物中の自生性U(河川から流入する土壌や岩石粒子にもともと含有されているUをThを指標にして差し引いたU成分)の変動は日射量変動のミランコビッチ・サイクルとよい対応を示した。暖かい時期に,Uは多く沈積しており,一方寒い時期は殆ど沈降していないことが明らかとなった。 6)湖では,堆積物中のウラン変動が暖かい湿潤の期間(間氷期)と寒い乾燥期間(氷期)の指標になりうる。
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