2006 Fiscal Year Annual Research Report
浮世絵のリレーショナルデータベース化-初期浮世絵の文字情報の解明-
Project/Area Number |
18520133
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Seisen University. |
Principal Investigator |
武藤 純子 清泉女子大学, 文学部, 講師 (50424304)
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Keywords | 初期浮世絵 / 役者絵 / 発句 / 紅摺絵 / 鳥居清満 / 観水堂丈阿 / 宝暦期 |
Research Abstract |
発句画賛のある初期浮世絵は、年代考証の結果、寛保2年(1742)が上限である。数量的に多いのは宝暦期(1751〜63)である。下限は錦絵創始の明和2年(1765)年から数年後までである。寛保2年というと、私の考察では紅摺絵制作のほぼ最上限である。2〜3色の紅摺絵が行われ始めた時、この新しい浮世絵を売る一つの企画として発句画賛の構図を採用したものと思われる。絵師は鳥居清満、鳥居清重、鳥居清広、奥村政信、石川豊信らがみられ、数量的に多いのは清満、発想的に面白いのは清重である。清重は宝暦前後、初期浮世絵には珍しいことだが、似顔表現をとっている。しかし女方の顔には似顔を用いず、道外方、実悪、立役、若衆など男役ばかりである。清重の発句画賛は、役者似顔との相乗効果で、俳譜的な面白み、滑稽さを醸し出している。ほかに観水堂丈阿の署名のある作品も多い。これらは文字や散らし書きに工夫がみられ、詩(発句)、書、画が一体となった構図になっている。300図を越す浮世絵の中で、重複する発句は2種のみである。1種は、瀬川菊之丞を評した「三代の花に無間の金箱め」で、清満の2図に使用されている。もう1種は、市川雷蔵・芳沢五郎市を評した「櫛梳るとてや尾花の風の音」で、鳥居清満と清経の図に使用されている。こうした例は急いで製作しなければならない事情によるもので、一般的には、先行する発句集からの流用もなく、繰返しの利用も少なく、制作の都度、役者や場面にあった句を作っている。季語を調べると、冬と春が多い。11月の顔見世と1月の正月興行を宣伝する意図が強かったからである。絵柄に関係した発句のある浮世絵は、役者や芝居の情報をより多く含んでおり、それを読み解く面白さがあるとともに、詩、書、画一体の文学的香りまで漂わせている。江戸の庶民文化隆盛を背景に作られた新しい商品と言えよう。
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