2008 Fiscal Year Annual Research Report
アメリカ合衆国における『ハックルベリー・フィン』論争と「文化戦争」
Project/Area Number |
18520164
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
井川 眞砂 Tohoku University, 大学院・国際文化研究科, 教授 (30104730)
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Keywords | アメリカ合衆国 / アメリカ文学 / マーク・トウェイン / 『ハックルベリー・フィンの冒険』 / 多文化主義 / 「文化戦争」 / 人種 / 文学教育 |
Research Abstract |
アメリカ文学の傑作とされる『ハックルベリー・フィンの冒険』(Adventures of Huckleberry Finn, 1885)をめぐる今日の人種主義論争を、20世紀末アメリカ合衆国の「文化戦争」の中において考察し、多文化社会を迎えた現代アメリカ社会における本作品の受容の変化とその意味を明らかにしようとする。平成20年度は以下の検討を試みた。 (1) 奴隷制度下のミズーリにおける人種主義的黒人観とトウェインとの関わりを考察するために、少年時代のハンニバルの町の実相を「奴隷のいる社会」という視座から検討し、「サム・クレメンズのハンニバル--奴隷のいる社会」(『マーク・トウェイン研究と批評』第7号)に纏めた。町は1839年に「奴隷条例」を制定し、その制度の維持強化を最優先課題として取り組んだ。その時期のミズーリ州北東部地域とこの町の実相を追いながら、トウェインが人種主義的黒人観を身につけた「奴隷のいる社会」を検討した。 (2) しかしハンニバルの町を出奔してから20余年後、東部に移住したトウェインの人種観は大きく変化しており、その文学的成長を示す「重要な画期」をなす短編「ある真実の話」(1874)を分析して「聴いたままを記したマーク・トウェインの〈ある真実の話〉--ストーリー・テラーの真摯な実験」(風呂本惇子他編『英語文学とフォークロア』)に提示し、思想的にも大きな転換をみせる本短編が『ハックルベリー・フィンの冒険』の語りを予兆させると指摘した。
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