2008 Fiscal Year Annual Research Report
森と人間の文化史-伝承文学研究とエコロジー教育の接点-
Project/Area Number |
18520191
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Research Institution | Toyo University |
Principal Investigator |
大野 寿子 Toyo University, 文学部, 准教授 (20397491)
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Keywords | グリム / メルヒェン / 伝承(文芸) / 森 / 自然 / ドイツ / エコロジー / 魔女 |
Research Abstract |
平成19年度に出版した研究書『黒い森のグリムードイツ的なフォークロアー』(単著、郁文堂)をもとに、本年度は特に、森に住まう「魔女」と「自然観」との関連(「魔女-森-自然」)から、伝承文学がエコロジー意識に寄与しうる可能性を検証した。国際的な成果公開としては、2008年8月27日、アジア地区国際ゲルマニスト会議2008金沢大会(Asiatische Germanistische Tagung2008Kanazawa)で、"Das Majo(魔女)-bzw. Hexenbild im gegenwartigen Japan. Ein Praxisbericht uber die Vorlesungen an zwei Universitaten"という題目で研究発表をした。現代日本人が描く「魔女」像が、いかなる影響のもとに形成されているのか、現在では精神的な「癒し」の存在とも見なされる「魔女」と、その周辺を取り巻く薬草や占い等の「自然」との関わり、「魔女」の存在に欠かせないファンタジー(創造力)の重要性を説いた。「有機体とその環境の間の諸関係の科学」という19世紀「エコロジー」の初期定義(ヘッケル)を機軸に、外界としての自然保護のみならず、心象風景としての自然とそこに住まう「癒し」の象徴としての「魔女」の現代におけるエコロジカルな意義の可能性を提案した。また、ヘルダーの思想を受容したとされるグリム兄弟の「自然」と「人為」との対比をテーマに、2009年4月末をめどに論文を作成中。グリム兄弟の論文書簡等に表れる、森林破壊に喩えられた、言語、歴史、文学文化各方面における「古のもの」の喪失プロセスと、それらの現代における再評価の重要性を説く彼らの自然観およびポエジー観が、ロマン派思潮とも共鳴し、19世紀ドイツエコロジー運動の先駆的ポジションを担いうることを説き、彼らの収集『子どもと家庭のメルヒェン集』(グリム童話)の森に託された、「自然」との有機的連関と精神的な関わりに関するメッセージを明示する。
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Research Products
(6 results)