2007 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
18520215
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
太田 一昭 Kyushu University, 大学院・言語文化研究院, 教授 (10123803)
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Keywords | エリザベス朝 / 英国ルネサンス / 戯曲 / 出版 / 宮廷祝典局長 / 検閲 / 演劇 / 書籍市場 |
Research Abstract |
書籍一般の出版に関する研究書、英国近代初期の演劇テクスト出版に関する文献・資料、英国ルネサンス期の演劇テクストを収集し、併せて、(1)英国ルネサンス期の戯曲の検閲に関する研究発表を行い、(2)16〜17世紀イングランドにおける戯曲出版に関する論考を執筆した。 (1)においては、Debora Shuger,Censorship and CulturalSensibility(2006)の書評を通して、英国ルネサンス期の演劇および戯曲本の検閲・認可システムについて、次のように論じた。出版の検閲の大部分は教会関係者によって、あるいは1599年のカンタベリー大主教・ロンドン主教令によれば「(しかるべき)権限を有する者」によって行われたが、戯曲本については17世紀初頭以降、主として祝典局長によって行われるようになった。祝典局長による演劇及び戯曲本の検閲は、決して弾圧的なものではなかった。劇上演・戯曲本出版の認可は祝典局長の「経済行為」であった。局長にとって、演劇産業の興隆こそ望ましかったのである。 (2)においては、エリザベス朝における戯曲本の「人気」を検証した。シェイクスピアの時代において戯曲本は「たちまち売れてしまうことが見込まれる」人気本であったという説があった。これに対して、近年有力な説は、当時の戯曲本に対する需要は小さくその出版は旨みのないビジネスであったいうものである。1583年から1642年までの60年間の戯曲本の市場占有率は、2.77パーセントである。かなり高い数値であるが、当時の観劇人口の大きさ(Harbageの説に基づいて計算すると年間の延べ観客数は45〜60万)に比べると、戯曲本の出版は著しく少ないと言わざるをえない。戯曲本は供給が追いつかないほどどんどん売れた人気ジャンルであったと結論するのはむずかしい。「戯曲本に対しては一定の需要は存在していたが、強い需要ではなく、満足のゆく利潤を獲得することができたのは、適切な時点で適切な戯曲を入手できる幸運なあるいは才覚のある書籍商だけであった」という見方(Blayney)が妥当であると思われる。
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Research Products
(2 results)