2007 Fiscal Year Annual Research Report
南部アグレーリアンの「伝記」作品に関する文化史的研究
Project/Area Number |
18520217
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
小谷 耕二 Kyushu University, 大学院・言語文化研究院, 教授 (40127824)
|
Keywords | 南部アグレーリアン / 伝記論 / 自伝論 / アレン・テイト / ストーンウォール・ジャクソン / ジェファソン・デイヴィス / フォークナー / 南部文芸復興 |
Research Abstract |
(1)本研究は三年計画で、三人の南部アグレーリアンの「伝記」作品に焦点を当て、そこから各作家・詩人の南部文芸復興における位置づけ、さらには当時の時代思潮の基底にある思考や認識の枠組みを掘りおこすことを目的としているが、平成19年度は、自伝や伝記を書くという営み自体についての理論的考察を踏まえて、アレン・テイトのストーンウォール・ジャクソン伝とジェファソン・デイヴィス伝について検討した。歴史研究や現代思想におけるいわゆる「言語論的展開」は文学と歴史、テクストとコンテクストの区別を揺るがし、事実とフィクションの境界を流動化させた(野家啓一『物語の哲学』)が、そうした観点から見ると、事実や史料に語らせる従来の実証圭義的歴史学者の手になる伝記以上に、テイトの伝記作品には彼が、ストーンウォール・ジャクソンやジェファソン・デイヴィスの伝記を書くことを通して、旧南部社会に彼自身の願望や不安を投影しているさまが窺えることが明らかになった。これらの伝語に浮かびあがるテイトのヴィジョンに、後の彼の長編小説『父たち』に内在している(と思われる)みずからを相対化する「他者のまなざし」がどれほど潜在しているかは、かなり微妙な判断を要する問題であり、今年度の研究で取り上げるアンドルー・ライトルとロバート・ペン・ウォレンの伝記作品の場合と比較することによって、さらに慎重な検討が必要であることがわかった。 (2)本研究に関連する論考として、南部アグレーリアンと同時代の作家ウィリアム・フォークナーの『人月の光』を取り上げ、「恋するクリスマスー『人月の光』第8章を「短篇」として読む」をThe Kyushu Reviewに発表した。これは作中のひとつのエピソードを素材としつつ、フォークナーのいわば「複眼的な」書法、および多層的なく時間=人間〉観を考察したものであり、「他者のまなざし」の繰りこみによる自己の立場の相対化という点で、本研究におけるテイトの伝記作品に関する考察に側面から光をあてる意味をもつ論考となっている。
|
Research Products
(1 results)