2007 Fiscal Year Annual Research Report
「少女」向け名作再話の成立と展開-児童文学における翻訳叢書とジェンダー意識
Project/Area Number |
18520258
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
佐藤 宗子 Chiba University, 教育学部, 教授 (40162490)
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Keywords | 児童文学 / 翻訳 / 再話 / 叢書 / 少女 / 名作 |
Research Abstract |
1 『図説 児童文学翻訳大事典』を概観し,佐藤紅緑「緑の天使」について特に焦点化して検討を行った。ディケンズ原作『オリヴァー・トゥイスト』の最話だが,戦前の『少女倶楽部』に掲載され,第二次大戦後にも少女読物として刊行されている。創造・改変された三人の少女の造型を分析する中から,「少女」に対しても「少年」に対すると同様の正義感・勇気・行動力等が期待される一方,大団円では「結婚」に落ち着くことが明確になった。これは従来の研究成果とも合致する。つまり,第二次大戦後の少女向け翻訳叢書に見られる傾向は,実は戦前の崔話から続く流れの上に立つと考えられる。 2 上記で明らかになってきた「行動する少女」の行方にある「結婚する女性」イメージの結実として,バーネット『小公子』の翻案作品にも目を向けた。同一崔話者による対象読者別の二種の再話を比較することで、「結婚する女性」の理想として「賢い嫁」が提示している様子がうかがい知れる。また、翻案がその時点での時代状況をきわめて強く反映したものであることも指摘した。 3 1,2の結果をもとに,翻訳眼再話叢書が戦後の時期において「教養形成」の役割を果たしたのではないかとの仮定が得られた。今後の検証の契機としたい。 4 戦後の叢書については,児童向けと一般向けの中間的存在である三笠書房版「若草文庫」について,国会図書館及び大阪国際児童文学館で調査を行った。残念ながらこの文庫の複雑な出版形態を含め全般をきちんと把握できる所蔵状況になく網羅的な概括は見合わせた。ただし翻訳者村岡花子の存在の大きさが改めて確認でき,また上記「少女」イメージと重なる傾向が認められる。これについては,講談社マスコット文庫など他の十代向け叢書や一般の女性向け読物との関連を今後さらに追究することとしたい。
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