Research Abstract |
本研究は,アラビア語モロッコ方言において見られるGeminate(重子音)について、言語学的・音声学的調査を行うことを目的としている. 本年度は最終年であるので,昨年度行ったモロッコ国内での調査により収集した言語資料,音声資料および映像資料の分析をさらに進あた. 4人のインフォーマントの資料は,男性と女性それぞれ2人ずつあり,20歳代と40歳から50歳と,男女差や年代差での偏りが顕著に現れないように集められている.それらについて,以下の点に注目しつつ,分析を進めた. ・アラビア語モロッコ方言における重子音の言語学的な位置づけについて,特に音韻論的に検討した. ・重子音の単語内の位置について注目し,語頭,語中,語末のそれぞれの位置での音声学的な実現形について観察した.・音声学的な実現形について,音響音声学的に分析し,波形について観察するとともに,各種の音響的特徴についての持続時間(時間的な変移)について計測を行った. 以上の結果,音韻論的に,ほぼすべての子音音素は2つ重なることができることがわかった.そして,単語内の位置のいずれでも(語頭,語中,語末)現れることができる.しかし,それらの音声学的な実現形は,単語内の位置と音声によって異なることがわかった.すなわち,持続可能な音声(鼻音,接近音,摩擦音)は持続時間が長くなる形で現れるが,持続が可能でない音声(破裂音,破擦音)は語頭では,少なくとも無声音では,重子音と子音(ひとつ)とで同じ音声として現れることがわかった.また,持続可能でない音声の語中と語末については,現在分析を進めているが,語中では従来音声学で言われているように,閉鎖区間が長くなる形で現れるようである.
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