2006 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
18520603
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
田中 恭子 埼玉大学, 経済学部, 教授 (70272276)
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Keywords | ジェンダー / シングルマザー / 福祉国家 / 住宅政策 / スウェーデン / アメリカ / 居住地分離 / レジーム |
Research Abstract |
本研究は,女性と住宅政策の関わりを,レジーム理論を敷衍して理論化することを目的としている.自由主義,社会民主主義,保守主義の3つの理念型としてのレジームに依拠した福祉国家論は,「脱商品化」,つまり市場という過酷なシステムから解放された度合いを国際比較することから発展した.ジェンダーの視点からこの福祉レジーム理論を現実的多様性・複雑性という意味において批判的に受け止めることもできるが,一方で,女性の家庭における保育や介護などのケアーに見られる無償の労働が,市場における有償労働へと転じる過程で,福祉国家の果たす役割の影響力は絶大であり,その国別の相違を説明する上で福祉レジーム理論が有効であることが多くのフェミニスト研究者によって支持されている.女性労働を支援する諸政策に関する国家の対応は,歴史的に文化的・宗教的・政党政治的な共通点のある福祉国家間で同様なパターンが見られることが本来の権力資源論の研究者だけでなく,より広い層の研究者によっても同意されるようになった.住宅政策や都市政策も,同様な法律・制度の拡散がより進展しやすい国々のグループがあることが指摘されているおり,権力資源論と住宅問題の隠されたリンクを都市におけるジェンダーの問題として理論的および実証的に解明したい. 都市における「貧困の女性化」という問題は1970年代ごろからアメリカのインナーシティで深刻な問題として顕在化した.自由主義レジームの典型であるアメリカにおいて,市場原理による政策は,主としてマイノリティのシングルマザーを貧困に追いやった.保育政策においても市場原理と国家の介入が貧困層に限定される残余主義の影響が読み取れたと同様に,住宅政策においても,市場原理と残余主義の影響が濃厚である. 一方,今年度現地調査を実施したスウェーデンでは,住宅に関する規制が最も強固な国の一つである.人口規模の割には広大な領土を擁しているにもかかわらず,ストックホルムなどの大都市では集合住宅に居住する住民が70%を超えており,公営住宅の供給量が多いばかりでなく,民間賃貸住宅の家賃規制により公営・民間住宅ともに低い家賃を実現している.また,世界で最も協同組合方式の住宅供給が普及しており,それは連帯と民主主義を理想とする市民運動の興隆の歴史に起因している.このような住宅政策が展開されている国では,貧困なシングルマザーがインナーシティに集中するというアングロサクソン諸国に見られがちな地域構造は顕在化していない.スウェーデンの再配分的な福祉政策の実現によってシングルマザーやその子どもの貧困率は極めて低く,ストックホルムの居住地分離(segregation)は主に移民の公営住宅への流入によって引き起こされ,ジェンダーとはほとんど関連性がなかった.
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