Research Abstract |
顔などの再認課題を行う際に,テストの直前に,記憶した顔の言語記述を求めると再認成績が低下する言語隠蔽効果が知られている。この現象の一つの説明として,顔の記憶処理は主として非言語的,全体的な特徴に依存しているが,言語記述を行うことは注意を言語的,要素的な特徴に向ける,とするtransfer inappropriate processing shiftと呼ばれるものがある。この説明は,再認課題を行う際には非言語的,全体的な特徴が言語的,要素的な特徴に比べアクセシビリティが高いことを前提としているが,言語隠蔽効果が比較的安定しない現象で,言語化による妨害効果が見られない場合も多いことは,この前提が必ずしも成り立っていないことを示唆している。本研究では,顔の再認時の言語的,要素的な特徴と非言語的,全体的な特徴の相対的なアクセシビリティを左右する要因について検討した。基本的な実験パラダイムは,複数のターゲット顔を記憶し,のちに再認テストを行うが,その際通常の旧刺激,新刺激のほかに,4つのターゲット顔の目と眉,鼻,口,輪郭(髪,耳を含む)を合成して作成した合成顔を提示して新/旧の再認判断を求める,というものである。非言語的,全体的な特徴の相対的なアクセシビリティが高いほど,旧刺激に対する旧反応率は合成顔に対するそれを大きく上回ると考えられる。われわれのこれまでの研究からは,符号化の際の呈示時間が長いほど言語的,要素的な特徴が符号化されやすいことが示唆されている。本研究では,保持期間の長さによる影響を検討した。顔を学習した直後と1日後に再認テストを行った条件を比較したところ,直後の条件で非言語的,全体的な特徴の相対的アクセシビリティが高いことが示された。非言語的,全体的な特徴は言語的,要素的な特徴に比べ忘却されやすい,とするわれわれの仮説が支持された。 そのほかにNavon図形を用いて部分,あるいは全体に着目して反応を求める試行を繰り返すことが,続いて行われる顔の符号化時の注意の方向に影響を与えることが明らかになった。また,よく似た顔の弁別学習を行う際に,学習試行数が多くなると言語的,要素的な処理が行われるようになり,弁別がうまくいかなくなる,という現象が生じる可能性について検討を行っているが,これまでのところ現象を見出すには至っていない。
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