2007 Fiscal Year Annual Research Report
近世藩学における弓術教育の組織化と業績主義的運用の定着過程に関する研究
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18530624
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Research Institution | Tokiwa University |
Principal Investigator |
佐藤 環 Tokiwa University, 人間科学部, 准教授 (50280136)
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Keywords | 弓術 / 藩学 / 武芸 / 業績主義 / 弘道館 / 大和流 |
Research Abstract |
平成19年度における本研究の目的は、全国最大規模を誇る水戸藩学弘道館(以下「弘道館」とする)の弓術教育における教導組織の形成、見分等による藩士の修得程度確認実態などを調査し、封建身分制と相克する原理である業績主義の浸透度を水戸藩士の階層性に連関させ、近代的原理である業績主義が近世の教育機関、すなわち藩学において準備されていたことを考察することにあった。 弘道館の弓術教導組織は、日置流・雪荷派・印西派・大和流の流派ごとに「其技ニ長シ性行端正」であり家格が「平士已上」の者1名を「教師」に、それを補助する「手副」には「毎流各二員已上、其生徒多キ者ハ六七員」を配置した。注目すべきは、江戸時代になって唯一成立した大和流を弘道館の主たる弓術流派としたことである。大和流弓術の精神は、神道思想を中心とし儒仏の思想をも織り混ぜて承応元(1652)年に森山香山が大成したと言われる。「神儒一致」を標榜する弘道館以外でこれを藩学で取り入れたのは、美濃岩村藩学知新館、越後新発田藩学道学館、播磨林田藩学敬業館しか確認できない。藩士の弓術修業は、(1)弘道館内西南隅の射場で9月から3月まで行射せしめ余暇には各自家塾にて修業、(2)毎月5回、弘道館内操練場で大候遠射を試みる、というもので、藩士の弓術業前認定は、国老・番頭が毎月2回行う「私試」と藩主(又は執政)臨席で毎秋行う「親試」があり、前者では「同芸異流ノ者ヲ会シ対試」した。 弘道館弓術教育の特色は、「神儒一致」という学是の下、弓術四流派のうち神道精神を重視する大和流を中心とし、実践的色彩の濃い弓術にあって精神性を強調していたことである。また、幕末期以前にはどの藩でも他流試合を禁じていたものが、弘道館では異流との試合で切磋琢磨させようとする業績主義的運用を制度化した。学校教育の場における業績主義の原理は、幕末期にその萌芽を見いだすことができるのである。
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Research Products
(2 results)