Research Abstract |
1.カオス的トンネル効果と動的局在 カオス的トンネル効果を担う複素軌道のひとつの特徴として,一本一本のトンネル軌道が,規則領域(トーラス)とカオス領域の両方の性質を併せもつことが挙げられる.このことから,規則領域をトンネル効果によって通過する過程と,実カオス領域を運動するプロセスとが独立ではなく,動的局在現象と,トーラス中をトンネル過程で抜ける過程とが互いに相関をもって現れることが予想される.実際,カオス領域で起こっている動的局在を雑音印加などの方法で無効化すると,古典カオス領域で(準実)トンネル軌道間がもつ干渉が破壊され,トンネル確率が大幅に増大することが数値計算により確かめられた.通常,雑音などの外部環境と接触させると,系が古典化によりトンネル確率が減少することが知られているが,カオス的トンネル過程では全く逆のことが起こることになる. 2.箱の中の2剛体粒子系における緩和過程 力学系理論の観点からガラスにおける遅い緩和過程を理解するための足がかりをつくるために,箱の中を運動する2つの剛体球系を調べた.2つの剛体球系は,適当な条件下での系のエルゴード性が厳密に証明され,多体ハミルトン系として最も単純な力学系である.この系の緩和過程に影響を及ぼすことが期待される不変構造の候補として,系に存在する2種類の周期軌道,すなわち,(1)平行な辺で反射を繰り返す,いわゆるbouncing ball mode(2)2つの球がすれ違うボトルネックに存在する周期軌道,が緩和過程にいかなる影響を及ぼすかについて検討した.その結果,前者については,位相空間に占めるbouncing ball modeの次元が剛体球の数が増大すると共に相対的に低くなることからその影響力が小さくなることがわかり,後者については,緩和の速度を遅らせる効果はあるものの,緩和の関数型を指数関数的なものからずらす効果はないことが明らかなった.
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