2006 Fiscal Year Annual Research Report
近代メディアとナルシシズム--「文学的表象システム」に関する研究
Project/Area Number |
18682002
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
森本 淳生 一橋大学, 大学院言語社会研究科, 助教授 (90283671)
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Keywords | メディア / ナルシス / ナルシシズム / 近代文学 / 表象 / 象徴主義 / 鏡 / ジャーナリズム |
Research Abstract |
本研究は、19世紀以降飛躍的に発展したさまざまなメディア(出版、新聞、雑誌、ラジオ、テレビ、インターネットなど)と、文学作品や社会事象のなかにみられる様々なナルシシズムとの連関を明らかにし、その構造を素描することを目的としている。 本年度は、ローデンバックの『死都ブリュージュ』、マラルメの批評詩、ヴァレリーの詩と書簡などをとりあげて考察を加えた。『死都ブリュージュ』は、運河の反映や登場人物間の類似、街と人との感情的反響など、さまざまな反映のテーマを内包している点で、ナルシシズムをブリュージュという舞台において展開した作品である。興味深いことに、この作品のなかで、主人公ユーグは、街の人々から隠し鏡によってその動向を観察され、彼の愛人との行き来は一部始終が口コミ(ひとつのメディア)によって広まっていく。言いかえるなら、この作品は、ナルシシズムという自閉的事象を、鏡という装置を媒介にして外部へと接続し、メディアの問題へと開くものなのである。 こうした私的領域と外的メディア領域との接合の問題は、鏡をテーマにした詩を書いたマラルメが、1870年代に『最新流行』でモード雑誌を試みたジャーナリストであった点にも見出すことができる。しかも、この雑誌の記事を読むと、サロンの鏡が人々の交流の様子を映しだし、いわばコミュニケーションの次元へと開かれているのが理解されるのである。 同様に、ヴァレリーもナルシスをテーマとして詩を書きながら、ナルシス的な友情関係をジッドやルイスと結んでいた。彼らの交流からなる文学グループはナルシシズムによって規定されており、その意味で、メディアとナルシシズムとの接合の様態を示すものだと言える。 来年度も同様の観点から研究を深めていきたい。
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Research Products
(3 results)