2006 Fiscal Year Annual Research Report
『老子』の注釈史及び受容史を中心とした中国学術史及び思想史の研究
Project/Area Number |
18720010
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
齋藤 智寛 京都大学, 人文科学研究所, 助教 (10400201)
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Keywords | 思想史 / 宗教学 / 中国哲学 / 仏教学 |
Research Abstract |
六朝隨唐における『老子』解釈史研究の一端として、伝顔師古撰『玄言新記明老部』(敦煌文書ペリオ2462号)の『老子』理解を主に形式面から検討した。まずその作者について顔師古『漢書注』に示された『老子』解釈と比較をおこない、顔師古の真撰ではないと推測した。古典解釈の方法論から見た『明老部』の特徴としては、六朝以来の科段説に反対しつつ章旨や章序を明記することを挙げ、この形式は後の玄宗『御製道徳真経疏』に継承されたこと、ひるがえって同時代の成玄英『老子義疏』は六朝の遺風をのこした保守的な注釈方法を用いていることを明らかにした。また、『老子』解釈において章序や科段を重視し、篇や章の配列のすべてに意味を見出そうとする姿勢は、老子の神格化や『老子』の宗教典籍化に並行する現象なのであって、たとえ同じ形式の採用とはいえ仏教や儒教とは異なった意味を持っていたことをも指摘し、三教交渉史研究に新たな視角を提唱した。これらの研究成果は、「2006漢学研究国際学術研討会」(2006年10月27、28日、於雲林科技大学)において発表しており、訂正稿は『敦煌学』第27輯に掲載予定である。 また『老子』注釈の形式に大きく影響した仏典注釈の研究の一環として、中央研究院所蔵の「敦煌文献」の中から188104「維摩手記」、188105「維摩経科文」の2点を取り上げた。まず前者については、これまで「維摩手記」とのみ知られていた注釈が、実は押座文や関連するメモ書きを伴った複雑な写本であることを分析した。次に後者の内容について、それが『浄名経集解関中疏』と密接な関わりを持つ『維摩経』科文であって、「維摩経釈前等小抄」とする従来の擬題が不適当であることを指摘した。これらについては、「中央研究院歴史語言研究所傅斯年図書館蔵「敦煌文献」漢文部分叙録補」(『敦煌写本研究』創刊号掲載予定)で詳細に論じた。
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