2006 Fiscal Year Annual Research Report
占領下(1940-44年)におけるパリ市芸術局の音楽政策
Project/Area Number |
18720026
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
田崎 直美 お茶の水女子大学, 大学院人間文化研究科, 研究員 (70401594)
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Keywords | 音楽 / 文化 / 政策 / フランス / パリ / 占領 / 20世紀 / 第二次世界大戦 |
Research Abstract |
本年度は、一都市パリの文化政策の歴史的・制度的変遷を考察する一環として、占領期におけるパリ市の音楽政策、特に(パリ市)芸術総監本部Inspection generale des Beaux-Arts(de la Ville de Paris)(以下IGBAと略記)が関与した公開演奏会事業に関する政策を中心に検証を進め、基礎的な情報の収集と整理を行うことを目的とした。この時期のパリの演奏会場は戦前よりも繁栄したことが知られているが、これまでの研究では国策の視点は考慮されていても、市政の視点は全く取り入れられていない。本研究ではパリ市による政策の特徴を、当時の国家による音楽政策との対照を通して考察した。なお主な調査史料は、パリ市公文書館Archives de Parisが保管する公文書、そしてフランス国立図書館所蔵の当時の新聞・雑誌記事である。 調査の結果、占領下でのパリ市企画の演奏会は、主に「日曜演奏会」や「青少年と音楽」といった定期演奏会を通して、「失業対策」「捕虜支援」「青少年の活動促進」といった、社会福祉、教育事業を標榜していた点が明らかになった。しかし、実際には現代フランス人作曲家も含めたフランス人の作品促進に力点が置かれていたことから、実質的にはフランス国家の威信の回復と高揚のためのプロパガンダであったと考えられる。すなわち、組織上連携関係にはなかった国家とIGBAだが、両者は同じ音楽政策上の目標を共有していたことが、今回の検証より判明したのである。ただし特徴的なことは、国(ヴィシー政権)の芸術局が、プロパガンダを実行する組織に対して予算の増額、補助金支給および必要手段(ラジオ放送など)を提供する方法を採ったのに対して、IGBAは民間団体への補助金をすべて廃止した上で国家からの臨時予算を基に、限られた有能な個人に強力なイニシアティヴをとらせながら、独自企画を中心に推し進めた点にあるのである。
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Research Products
(1 results)