2008 Fiscal Year Annual Research Report
リヒテンベルクとホガースの間メディア性についての研究
Project/Area Number |
18720069
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
濱中 春 Hosei University, 社会学部, 准教授 (00294356)
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Keywords | リヒテンベルク / ホガース / 線の美学 / 物語論 |
Research Abstract |
本年度は、リヒテンベルクのホガース解説におけるジグザグ線と美の曲線の関係について考察した。18世紀後半の美学においては、S字型の蛇状曲線とZ字型のジグザグ線とはしばしば対置され、前者が肯定的、後者が否定的に評価されているが、リヒテンベルクはそのような対比を相対化するだけではなく、むしろジグザグ線の方を好んでいた。 そもそも線は造形芸術における時間の表象であるとともに、物語もまた線条性をもっという点で、線は視覚的イメージと言語テクストとを媒介する要素である。そして、ホガースの銅版画のなかで、稲妻の図像としてジグザグ線が最も鮮明に描かれている『放蕩息子一代記』第四図にかんするリヒテンベルクの解説からは、稲妻という瞬間性を象徴する現象であってもてジグザグ線で描かれることで、時間の経過をともなった運動としてとらえられることと、絵の中のジグザグは、絵物語の主人公の人生行路をあらわすとともに、それを一連の絵で語る絵物語自体の語りの形式をもあらわしていることがあきらかになる。そして、それにたいして言語による物語はなめらかに断絶のないものとして対比される。つまり、リヒテンベルクは、蛇状曲線とジグザグ線の違いを、言語による物語と絵による物語のそれぞれの語りの形式の差異として読みかえているのである。 しかし、リヒテンベルクはまた、スターンの『トリストラム・シャンディ』のように言語による物語も脱線や逸脱によってジグザグ線状に語られる場合もあることを認めている。そして、それはほかならぬリヒテンベルク自身の解説テクストの特徴でもある。リヒテンベルクのホガース解説は、ジグザグ線の原理で語られるホガースの絵物語(ストーリー)を、さらにジグザグ線の原理で語るプロットであるという点で、リヒテンベルクが覚え書に自ら描いた「二重のジグザグ線」を物語論的に体現しているのである。
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Research Products
(4 results)