2006 Fiscal Year Annual Research Report
文化の社会学的方法による上演分析-A・ウェスカーと戦後英国階層問題-
Project/Area Number |
18720071
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Research Institution | Kushiro Public University of Economics |
Principal Investigator |
大貫 隆史 釧路公立大学, 経済学部, 講師 (40404800)
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Keywords | イギリス演劇 / 英米文学 / 演劇学 / 文化の社会学 / アーノルド・ウェスカー |
Research Abstract |
本研究は、第二次大戦後のイギリスに登場した、いわゆる「ニューウエイブ(New Wave)」、もしくは「1956年世代」と呼ばれる劇作家の中でも、社会改良を掲げて大きな反響を呼んだアーノルド・ウェスカーをその主たる研究対象とするものである。分析を進めるにあたっては、「文化の社会学(Sociology of Culture)」等の理論を用いることにより、「文化的装置」としてのイギリス演劇という側面に光を当て、階層問題と演劇との動的な関係性を浮き彫りにしていくことを目指している。加えて、ウェスカーに関係する作家達にも目を向けることより、上述の観点の掘り下げを図るよう留意している。 研究初年度である本年度は、ウェスカーの「センター42」時期の作品における「ブラウネス」の側面を分析していくこと、及び文化の社会学的方法を演劇作品分析に適用する際、そこに浮上してくる諸問題に対する考察を行うことに注力した。 前者の作業は、先行研究が提示する、戦後イギリス演劇史におけるウェスカー作品の位置付けを踏まえつつ進められたが、そこで明らかになってきたのは、イギリス演劇史における支配的なナラティヴが、技法的発展を軸に各作品を配置するものであり、結果、「センター42」に関わるウェスカー作品に対し、技法的「実験」という評価しか基本的には与えられていないことである。そこでは、演劇というハイブラウもしくはミドルブラウ的文化装置に、ポピュラーカルチャーの要素が持ち込まれていることの意味が充分には解明されていない、と言うことができる。 この観点を詳細に考察するには、ピエール・ブルデューらに始まる文化の社会学的方法を演劇に適用しているアメリカの演劇学者らの仕事が大きな示唆を持つ。これをイギリス演劇に使用していく際に生じる問題点を整理する作業を進めていきつつ、次年度もウェスカー作品の分析を深めていく予定である。
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