2006 Fiscal Year Annual Research Report
ヘミングウェイの遺作研究:オリジナル原稿の編纂方法とその問題点
Project/Area Number |
18720075
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
杉本 香織 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 助手 (70409613)
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Keywords | アメリカ文学 / アーネスト・ヘミングウェイ / 死後出版作品 / マニュスクリプト研究 |
Research Abstract |
本研究は、ヘミングウェイの死後出版作品のオリジナル原稿(以下OM)を、遺族や出版社によって編纂・出版されたテキストと比較することにより、彼らの編纂方法とその問題点を明らかにすることに主眼を置いている。平成18年度は、以下の2作品を取り上げ、OMの調査および分析を行った。 (1)『海流の中の島々』-『ヘミングウェイ研究』第8号掲載予定 当作品の編纂者スクリブナー・Jr.らが編纂時にポイントとした中で、特にOMのもつ特色を半減させたと考えられるものは以下の4点である:(1)登場人物の名前のゆらぎを解消させたこと、(2)主人公ハドソンを三人称に統一したこと、(3)OM第11章[次男とマカジキとの死闘場面の翌朝の場面]を全カットしたこと、(4)OM第16&17章[ハドソンが息子らの事故死の知らせを受けた後の場面]を大幅カットしたこと。この作品では過去の出来事や人物をフィクション/ノンフィクションの境界線上で描く過程で、いかに虚構の「ヘミングウェイ」を作品内に織り込むかという作者の迷いが見てとれる。この試行錯誤と失敗の形跡が、形式の面では名前や人称のゆらぎとなって、また内容・テーマの面では第11、16、17章となって表れていると結論づけた。 (2)『エデンの園』-日本アメリカ文学会東京支部9月例会発表 当作品の編纂者ジェンクスは、ヘミングウェイが生前執筆していた2つの「仮の最終章」に目を向けなかったばかりか、以下の4つの場面を大幅にカットした:(1)マリータの場面、(2)ニック&バーバラの場面、(3)若手作家アンドルーの場面、(4)第36章[キャサリンが夫にivory色に髪を染めることを強要する場面]。これらのカットから、作者が描いた主人公「デイヴィッド」と編纂者が作り上げた「デイヴィッド」には大きな乖離があるということ、また編纂者が完全に削除したアンドルーにも作者の「ビジョン」の多くが託されていることが分かった。
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Research Products
(1 results)