2008 Fiscal Year Annual Research Report
ヘミングウェイの遺作研究 : オリジナル原稿の編纂方法とその問題点
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18720075
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Research Institution | Bunkyo Gakuin College |
Principal Investigator |
杉本 香織 Bunkyo Gakuin College, その他部局等, 助教 (70409613)
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Keywords | アーネスト・ヘミングウェイ / 死後出版作品 / 危険な夏 |
Research Abstract |
本研究は、ヘミングウェイの死後出版作品のオリジナル原稿を、遺族や出版社によって編纂・出版されたテキストと比較することにより、彼らの編纂方法とその問題点を明らかにすることに主眼を置いている。平成20年度は、以下の1作品を取り上げ、オリジナル原稿の調査および分析を行った。 (1)『危険な夏』(The Dangerous Summer) 平成20年度は、ヘミングウェイが最晩年に執筆した『危険な夏』に焦点をあて、オリジナル原稿と雑誌『ライフ』誌に掲載された版(1960)、および彼の死後、第三者の手によって編纂されたスクリブナーズ版(1985)を比較・検討することによって、二つの編纂によってオリジナル原稿から何が失われたのかを明らかにした。さらに心身ともに衰弱していた当時のヘミングウェイがこの作品に託した思いを、他の死後出版作品との関連を視野に入れて考察した。 具体的にはまず、上記二回の編纂でいずれも完全にカットされたオリジナル原稿の後半3分の1に着目、オルドネスとロドリゲスそれぞれに投影された「ヘミングウェイ」像-オルドネスには「今のヘミングウェイの願望の体現者」としての役割、ロドリゲスには「目を反らし遠ざけたい現在のヘミングウェイ」としての役割-を明らかにした。そして、その二つの像を手がかりに前半の3分の2を読み返すことにより、当作品が事実だけを客観的に叙述したノンフィクションではなく、むしろヘミングウェイによって「ロドリゲス(=現3の「ヘミングウェイ」)がオルドネス(=過去の「ヘミングウェイ」)によって徐々に追い込まれていく話」に仕立てられたフィクションである可能性を示した。
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Research Products
(1 results)