Research Abstract |
最終年度となる2008年度では, これまでの研究をまとめ, さらにデータを積み重ねることが目標とされた。2007年度に行った現地調査の結果を踏まえ, ポスト社会主義期に於ける宗教「復興」とロシア民族学の記述の関わり, 市民・社会運動団体とロシア社会学の記述の関わりについて, 論文「ブリヤート : 宗教「復興」と青年組織」で, 簡潔にではあるが纏めた。また, 調査地での市民・社会運動団体の活動とその特性が, 欧米の社会人類学全体に, 特に政治人類学の枠組に対して, 如何なる理論的インパクトをもたらすことになるかについては, 学会報告を行い, 展望を示した。さらに, ソヴィエト民族学を強力に支えたエトノス理論の全体像を, 論文「ロシア民族学に於けるエトノス理論の攻防 : ソビエト科学誌の為に」にて示すことが出来た。ソ連時代後期, 民族学研究所所長を長らく務めたIu・ブロムレイによるエトノス理論は, ソヴィエト民族政策を支える一種の社会工学と従来理解されてきたが, 本研究で, マルクス=レーニン主義の理念とソヴィエト型連邦制及び社会的現実との相克の中で生じた, 高度な理論体系を持ったものであり, 学としての民族学の独自性を支え, さらにはソヴィエト社会の現実を批判しうるものであったことを示すことが出来た。これは, 日本語でも英語でもロシア語でも議論されていない論点と言える。2008年度, ロシアでの文献調査を予定していたが, 収集を計画していた文献, 1920年代の『郷土研究[露語]』と第二次世界大戦中・直後(それゆえ入手が困難であった)の『ソヴィエト民族学[露語]』が折りしも日本でマイクロフィッシュからの復刻版の形で出版された結果, 経済的にも労力的にも効果的に調査研究を進めることが出来た。これらの文献をもとにした研究はまだ完成していないが, 近い将来, 論文「ロシア民族学に於けるエトノス理論の攻防」を発展させる形で成果を問いたいと考える。
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