2006 Fiscal Year Annual Research Report
脳科学時代の刑法における自由意思--中止犯の任意性要件を題材に--
Project/Area Number |
18730043
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
和田 俊憲 慶應義塾大学, 大学院法務研究科, 助教授 (80302644)
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Keywords | 刑の減免 / 中止犯 / 任意性 / 自由意思 / 脳科学 |
Research Abstract |
研究1年目の本年度は、脳科学との関係では、示唆的な個別の高次脳機能研究と、脳科学の進展が法的自由意思に対して与える影響に関する議論とを、探索した。一定量の議論がある後者に対して、前者はまだ不十分であるが、実験技術は発展しつつあることが分かった。刑法学との関係では、事後行為に基づく刑の減免事由(中止犯、自首、被拐取者解放等)を広く視野に入れ、事由の違いを超えて同内容に解すべき共通要件と相異なる解釈を施すべき個別要件とを仕分けして、考察の枠組み作りを行った。そこではまず、客観的要件に関して本研究の前提的考察を行い、一部を¢被拐取者解放減軽における『違法減少』と『違法減少阻却』£慶應法学7号169頁以下にまとめた。そこで得られた知見をも基に、主観面について、行為意思、行為状況の認識および結果の予見(客観要件該当事実にかかるものとそれ以外のもの)、その他の各要素の相互関係を分析し、従来の議論を整理した。このうち、行為意思と客観要件該当事実にかかる認識・予見とは、共通要件と解されたが、その理論的根拠には不分明さが残った。これに対してその他の主観的要素は、非難の減少を根拠に、事由ごとの個別要件としての主観的要件(狭義の任意性要件)を構成するものと解され、非難の基礎となる犯罪行為と非難減少の基礎となる事後行為の客観面、および法的効果の均衡という観点から総合的に解釈することが必要であるとの結論に達したが、その前提として、主観的要素自体に対するより詳細な分析が必要であることが分かった。次年度は、引き続き探索する脳科学の知見も利用しつつ、行為意思と狭義の任意性とに対応する絶対的自由意思と相対的自由意思とを区別し、それぞれの内容に考察を加えて、自由意思概念に対する理解修正の方向性を見出したい。
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