2006 Fiscal Year Annual Research Report
損害防止費用負担義務形成史についての実証的・比較法的研究
Project/Area Number |
18730081
|
Research Institution | Kinki University |
Principal Investigator |
野口 夕子 近畿大学, 法学部, 助教授 (40314794)
|
Keywords | 商法 / 保険法 / 海上保険 / 損害防止義務 / 損害防止費用負担義務 |
Research Abstract |
イギリスでは、損害防止義務に関する問題を扱う議論は幾多あるにも拘わらず、各国での趨勢に反して、1906年海上保険法78条4項以外に、このような損害を防止し、軽減するための合理的な注意を義務づける規定が制定法上存在していない。これは、イギリスにおいて保険契約に関する包括的な法典が1906年海上保険法ただ一つという事情に拠るものとはいえ、ここに同国保険法制の特異性が指摘できる。法典化されたコモン・ローとして、今日の実務全般にさまざまな問題を呈示してきた同国海上保険法のもっとも重要な規定の多くが、一般的に、海上保険以外の保険においてもまた適可能なものとして扱われている。実際、厳密には海上保険にのみ適用される同法が、非海上保険に関する事件の審理に際して法的根拠とされることが多々ある。1906年海上保険法に含まれる多くの諸原則は、他の形態の保険においても適用可能であることは勿論、保険契約上の法原則の大部分が、海上保険に関連して確立されてきたのである。 この1906年海上保険法を手掛かりに、保険実務の大部分が運用されてきたイギリスにあって、保険契約における損害防止義務および損害防止費用負担義務の問題についても同様である。しかし、同国海上保険法自体は20世紀初頭に制定されたものであり、同法は約一世紀にわたって現行法としての地位を保持している。だが、時代の推移のなかで蓄積されてきた幾多の判例や保険実務を通じて、多くの変容を被っている。同法78条に規定される損害防止義務および当該義務履行に際しての費用負担についての制度の実態も、同様である。 本研究の第一の課題は、損害防止義務および損害防止費用負担義務の展開過程の解明にある。平成18年度においては、その具体的なありようを掴み出すために、まず1906年海上保険法の成立過程について明らかにするため、同法制定に際してその基盤となった立法資料について検討する。そして、当該検討を踏まえ、主として、判例を題材としつつ、同法における損害防止義務および当該義務の履行に際する費用負担の運用の実態について考察することにある。そのため、本年度は、イギリスでの現地調査を含め、同国海上保険法成立にかかる立法資料、同国における損害防止義務および損害防止費用負担義務に関する著書、雑誌論文および判例の収集・分析を行った。
|