Research Abstract |
本研究では,色素増感太陽電池(Dye-Sensitized Solar Cell,DSSC)の光電変換効率のメカニズムを電子スピンダイナミクスという観点から解釈し,光電変換特性とスピンダイナミクスの相関を明らかにすることが大きな目的である.cw-,pulsed-ESRや,時間分解ESRを駆使し,有機色素や有機導体のスピンダイナミクスを調べることにより相関を調べてきた.本年度からは色素分子に注目して,昨年度までに構築した時間分解ESRシステムを利用し,光電変換特性を電子スピンダイナミクスという観点から解釈することを目的とした.光電変換メカニズムのポイントは以下の3つである.(1)色素分子の光照射による励起一重項生成,(2)励起三重項への系間交差,(3)励起三重項状態からTiO_2のような電極への電荷分離.そこで,本年度は,系間交差効率が良いことで知られているEosin-Yに注目し,その基本的な光照射後の電子スピンダイナミクスを調べ,その後にTiO_2に吸着させ電荷分離状態の観測を試みた.まず,プロパノール溶液中におけるEosin-Yの時間分解ESR測定を試み,励起三重項状態のシグナルの観測に成功した.またパルスESRにより励起三重項状態のT_1,T_2測定を行い,20Kでそれぞれ,〜140ms,〜280nsであり充分に長いT_1を持つことを実験的に示し,TiO_2に吸着時には電荷分離状態を観測できる可能性が高いことを明らかにした.またEosin-Yの結晶作成,X線結晶構造解析,多結晶試料における時間分解ESR測定にも成功した.結晶状態で時間分解ESRシグナルを観測できる珍しい系である.今後,電荷分離状態の測定を試みることと並行して,時間分解ESR測定に耐えうる大きな単結晶を作成し,テンソル軸配向を決定する予定である.
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