Research Abstract |
本研究では,低い電源電圧のもとで動作し,消費電力が10μW未満の信号処理用集積回路をCMOSプロセスで実現することを目標としており,当初の研究計画において初年度にあたる今年度は,回路構成を理論的に検討して有用な構成を提案することを目的としていた.これまでの弱反転領域を利用した研究をもとに一般的な構成理論を確立することで,次年度に世界最低電圧で動作する基底帯域信号処理用アナログフィルタを設計し,現実的な応用への道筋をつけることを目指した理論的基礎の検討段階である. まず,公知の成果の調査と従来の技術の整理を行った.MOSトランジスタの弱反転領域を用いて1.0〜2.0Vで低電力のフィルタを構成した例が複数あり,いずれも原理的にはトランジスタのチャネル電流がゲート・ソース間電圧の指数関数であることを利用し,微分方程式に基づいて歪が発生しない線形信号処理を可能としている.しかしながら,それぞれの回路設計の始めに仮定する帰還の施し方や設計アプローチが異なり,互いに異なる回路構成となって,log-domain回路や,syllabic型ならびにinstantaneous companding回路などと呼ばれてきた.指数関数特性を本質的な構成要素と考えることにより,CMOSのみならずバイポーラトランジスタでの回路も対象とし,理論的により広く一般的で網羅性の高い統一手法の構築に結びつける知識を獲得した.得られた各微分方程式を拡張して,全てを含むより一般的な式の表現を行おうとする過程において,instantaneous companding型だけでも非常に多くの回路構成が考え得るにもかかわらず,これまでは2,3の構成しか知られていないことに気づいた. 次に,一般理論から全ての回路構成を列挙して最適な構成を探索する手法の開発に取り組んだ.その第1段階として,instantaneous companding型で従来,知られていない回路構造を全て生成することを可能とした.この範疇の構造を本質的に表す微分方程式に様々な制約条件を導入し,トランジスタの指数関数を活用した線形信号処理回路を導くことができた.弱反転領域で動作する回路を多数構成でき,それらを,本研究では特に低電圧・低電力という観点から考察した.式が表しているシステム特性とこれらの物理量に絶対的な関係がないため,式の形(複雑さ)とトランジスタ数,ならびに電圧・電力の間の相関に着目し議論して,これまで知られていない,超低電圧・低電力に適した回路構造を探し出した.また,全回路構造を生成することで,電源電圧や消費電力以外の回路特性において適した設計が可能となった.式の一般性により設計の自由度が高くて多くの回路が導出されることから,人手で調べ上げることは莫大な時間と労力を要するため,アルゴリズムを明らかにし計算機を利用して全ての回路を設計し,よって全探索を行えるようになった.
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