2006 Fiscal Year Annual Research Report
琵琶湖をモデルシステムとした沿岸食物網の時空間構造解析
Project/Area Number |
18770014
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
奥田 昇 京都大学, 生態学研究センター, 助教授 (30380281)
|
Keywords | 食物網 / 安定同位体 / 琵琶湖 / 生物標本 / 生態系 / 富栄養化 / 人為的移入 |
Research Abstract |
1、琵琶湖沿岸食物網の空間構造解析 琵琶湖に流入する河川の河口沿岸部33地点において魚類・底生動物・底生藻類・懸濁態有機物の定量採集を行った。沿岸食物網を代表する2つの摂餌機能群としてカワニナ類(底生藻類食者)とタテボシガイ(懸濁物濾過食者)の炭素・窒素安定同位体比を空間構造解析に用いた。カワニナ類の窒素同位体比は流域の人口密度が高くなるにつれて上昇した。さらに、その現存量も流域の人口規模とともに増加した。人口規模の大きい河川ほど硝酸態窒素の同位体比が上昇することから、人間活動由来の栄養塩類が河川水を通じて沿岸の内部生産性を高める可能性が示唆された。タテボシガイでは同様の傾向が見られない反面、水田面積割合の高い流域ほどその炭素同位体比が低下する傾向を示した。これは水田地域で陸上植物由来の炭素同位体比の低い懸濁物の流入量が増加するためと推察される。以上より、流域の土地利用形態によって変化した河川の物質動態は、沿岸食物網の生産構造を改変しうることが示唆された。 2、琵琶湖食物網の長期変動解析 1914年より現在までに琵琶湖で採集・保存されてきた生物標本の窒素同位体分析を行い、各摂餌機能群の栄養段階の変動を10年スケールで解析した。1970年代に顕著となった富栄養化の影響で魚類生産性は一次的に増加するものの、底生雑食魚の栄養段階は富栄養化とともに低下した。これは、富栄養化による水中の懸濁化が底生藻類生産を低下させ、底生藻類食者の現存量を減じたためであると推察される。一方、肉食魚の栄養段階は富栄養化によって魚類生産が増加する時期に上昇した。しかし、続く1980年代以降の外来魚の爆発的な増加によって、在来魚が減少すると、肉食魚の栄養段階も急激に低下した。人為撹乱に伴う湖沼生態系の変化を定量的に評価する手法として、生物標本の安定同位体分析が有効であることを本研究は実証した。
|