Research Abstract |
本年度は,海外直接投資及び多国籍企業に関する既存の実証・理論文献を調べ,その論点整理を行って自らのモデル構築の準備を整えるとともに,外部性を伴う成長モデルにおける貿易政策,特に対外援助政策の成長・厚生効果を分析し,その成果を2本の論文として執筆した. 論文"Aid, growth and welfare in an interdependent world economy"[内藤巧氏(東工大)との共著]では,ラーニングバイドゥーイングによって蓄積される各国の知識ストックが国内の生産部門間でスピルオーバーするような2国2財2要素の内生成長モデルを構築し,対外援助が各国の経済成長と厚生にどのような効果をもたらすのかを理論的に分析した.その結果,受入国における資本集約財への消費性向が供与国におけるそれよりも大きいときにのみ,紐無し援助の増加が経済成長率を高めることが明らかとなった.さらに,その成長率上昇効果が十分大きければ,援助の増加は同時にパレート改善的であることが示された.尚,この論文は現在査読雑誌に投稿中である. 論文"Dynamics of a two-sector endogenous growth model with intersectoral knowledge spillovers"[内藤巧氏(東工大)との共著]では,上述と同様の知識ストックの生産部門間スピルオーバーを1国2財2要素の内生成長モデルに導入したうえで,モデルの動学的性質を分析した.結果として,消費財への超過需要曲線の傾きが(通常そうであるように)負であれば,均衡動学経路の一意性が保障されることが示された.このモデルにおいては,均衡動学経路の一意性は経済に移行動学が発生しないことと同義である.従ってこの場合,このモデルは様々な政策の成長,及び厚生効果に関する解析的分析の簡便性を提供する.逆に,超過需要曲線の傾きが正であるような場合は,定常状態に収束する経路が局所的に無数存在し,均衡動学経路の不決定性が発生する可能性があることが示された.尚,この論文はEconomic Theory誌に掲載を採択され,近刊の予定である.
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