2018 Fiscal Year Annual Research Report
偶然性をいかに生きるか:現代日本の『阿弥陀信仰』の諸相とその原点
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18F18304
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Research Institution | Ryukoku University |
Principal Investigator |
井上 善幸 龍谷大学, 法学部, 教授 (10388150)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
RUESCH MARKUS 龍谷大学, 法学部, 外国人特別研究員
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Project Period (FY) |
2018-11-09 – 2021-03-31
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Keywords | 阿弥陀信仰 / 空間 / 熊野 / 曼荼羅 / 源信 / 本地垂迹 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度は、近畿地方の阿弥陀信仰を明らかにするため、(1)三重県の真宗寺院・専修寺と(2)熊野三山、(3)琵琶湖周辺に注目し、フィールドワークを行った。その三つを調査対象に選んだ理由は、日本宗教の多くの側面を包括するからである。それは主に、(1)浄土真宗系本山の年中行事での最も重要な儀式、(2)存在し続けた神仏習合の宗教施設、(3)宗教巡礼である。 (1)専修寺では、特に「通夜念仏」という儀式における特殊な空間利用を解明するための調査を行った。「通夜念仏」は他の浄土真宗系本山でも勤められるものではあるが、出家・在家の区別の理解という点に関しては他の浄土真宗系本山と比べれば異例であった。本研究における根本的な関心である理論と実質との関係性についていえば、浄土真宗系寺院はおおむね同じ教義理解を持つとはいえ、実質的な面で大きく違う点が存在していることが本研究において非常に重要な発見である。 (2)熊野三山のフィールドワークは、特に現在における熊野参詣曼荼羅の扱いに関して新たな発見ができた。熊野三山は本地垂迹の継続を公に宣言するのみならず、速玉大社・那智大社・本宮大社の本殿にまでそれを実践するという点に関しては全国的に数の少ない事例の一つである。 (3)琵琶湖の周辺には、「びわ湖百八霊場」という比較的に新しくできた巡礼があり、それに参加する寺院の巡礼意識とそれに伴う空間創造は従来の巡礼と大きく異なったことが分かった。 熊野のフィールドワークは二つの発表で報告した。その発表で注目された点は、現代の空間的な参詣状況と熊野参詣曼荼羅および主に一遍と親鸞に関係する熊野文学であった。三つ目の発表は、天台宗における浄土教の祖と言われる源信の「縁」という概念についてであった。その概念を中心にした源信の著作の分析によって、源信の阿弥陀理解を明瞭することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
【フィールドワーク】2018年度のフィールドワークは近畿地方を中心にし、その地方における最も代表的な阿弥陀信仰の場を分析した。これにより、巡礼空間と堂内空間についての調査が進んだ。また、とりわけ参詣空間に関しては、2018年度のフィールドワークで本研究での必要な調査を完了した。本研究の最終的な目標は、ほぼ全国を視野に入れることの他、すべての典型的な空間種類(境内、堂内など)をフィールドワークの対象にすることである。そのため、次年度は特に巡礼という空間の調査を完了する予定である。その場合には具体的に、四国の八十八ヶ所遍路と関東における浄土真宗系巡礼を調査する。巡礼は多くの宗派を同時に取り入れる特徴を持ち、それよって阿弥陀という信仰対象に関して新たな発見ができると予想する。 【方法】本研究の実施計画では、通例か異例かの一方に重点を置くことをせず、両方の側面を入れる。しかし、申請書で書いた「宗派」と「単立」という区別は本研究には適切ではないところがあったことが分かった。そこで、二つの代替方法を現時点で考えている。一つは、地域に分けて、代表的な事例を決定することである。もう一つは、ある寺院のベースとなった寺院とそれをベースにした寺院の比較である。後者の場合には、具体的な例を挙げれば、善光寺と新善光寺や熊野三山と新熊野神社である。 【先行文献】フィールドワークで調査した事例に関する先行文献はおおむね分析できたといえる。阿弥陀信仰全体の把握は次年度以降も課題となるが、宗教空間に関する主要研究者と業績は分析できた。そのため、フィールドワークの面からでも文献の面からでも2018年度の進捗状況を「順調」とする。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は計画通り、フィールドワーク対象をほぼ全国に広げる。文献分析・フィールドワークと並行して、次年度で特に課題になるのは、アプリの根本的な作成および統計データ(『宗教年鑑』など)を使用した全国の阿弥陀信仰分析である。また、歴史上の阿弥陀理解に加え、現代の日本社会における阿弥陀あるいは阿弥陀と関わる場所の取り扱いも視野に入れる必要があると思われる。要するに、ある宗教空間の全側面を把握することは、その寺院の歴史(政治的な事件や堂の変更など)と現代の状況(観光地としての役割など)が融合した時点で初めて可能になるのである。そのアプローチに対して、多くの研究は片方しか視野に入れない。 上述した空間種類に関して2019年度では、とりわけ「巡礼」に着手し、その宗教行為に焦点を当てることによって、普段阿弥陀と連想されていない役割を明らかにする予定である。2018年度のフィールドワークで基本的に明らかになったのは、阿弥陀信仰とそれが実践されている場所を分析するにあたって、その場所が形成されるベースになった歴史、本山などが非常に重要であることである。例を挙げれば、滋賀県の新善光寺という寺院の構造を理解するには、そのベースになった長野県の善光寺を知らなければならない。しかし、そのベースになったものとどこが違うかという問題に焦点を当てれば、宗教空間の変貌範囲およびそれをもたらす地域性を研究することが不可欠である。そのような変更に注目した分析によって、阿弥陀信仰の諸相を最も明瞭にすることができるといえる。 文献分析に関しては、本研究は理論と実質との関係性を明らかにするため、次年度は根本的な理論の分析を事項する予定である。具体的には、須弥山・十界・護国についての理論を分析することを目標とする。特に教義については、全体的にではなく、事例に鑑みて適宜参照する。
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Research Products
(3 results)