Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は, 小中の接続をふまえた比例概念の形成を意識した比例式の指導法を探ることにある。比例は小学校では, 変化の様子に着目することを中心に学ぶが, 中学校では関数としての対応の規則に着目する学習が中心となる。変化から対応への着目に移行することが, 小中の比例の円滑な接続に不可欠であり, これを実現することが関数概念の進展につながると考える。小中の比例の接続を媒介する役割として, 筆者は比例式(a:b=c:d)に着目して研究を進めている。具体的には, 生徒が比の値を比例の対応関係を示す値とみることができる過程の実証的検討が課題だった。 本研究では, 概念進展の過程を認知的, 歴史的に分析している研究として, Anna Sfard(1991)の「具象化理論」に着目した。具象化理論は, 数学的概念の進展は, 「操作的な見方」から「構造的な見方」へと変容であり, 操作的な見方から構造的な見方への過程は, ①内在化(interiorization), ②凝縮化(condensastion), ③具象化(reification)の3つの段階に分かれていると述べている。筆者は, 小学校と中学校で学習する, 「変化の様子」への着目から「対応の規則」への着目は, Sfard(1991)の関数における内在化から凝縮化への過程であると考えた。 筆者は操作的な見方から構造的な見方への進展を意図して, 中学校第一学年の生徒を対象に, 比例式の学習場面と比例の学習の導入場面で授業を実践した。比例式の学習では, 異種の2量でも比例の関係があれば比例式に表すことができること, 比の値が比例関係にある2量を接続する値として機能することを学習した。これらの学習に基づいて, 比の値と比例の式y=axを関連づけながら, 中学校で学習する比例の定義を導入した。 実践の結果, 一定の生徒は, 対応関係に着目して比例関係に基づいた問題を解決することができるようになったが, 一方で変化の様子に着目したままの生徒もいた。今後の課題は, 比例概念の進展の様相の詳細な枠組みを作成し, それにもとづき, 本実践を詳細に分析していくことである。
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