2018 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
18H00341
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
大羽 尚子 国立研究開発法人理化学研究所, 脳神経科学研究センター, テクニカルスタッフⅠ
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Project Period (FY) |
2018
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Keywords | イノシトール / 骨 / リチウム |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者は、ある遺伝子のホモ変異体胎児に、下顎の形成不全や、さらに非対称な胸骨-肋骨接合など骨形成関連の異常が出ることを発見た。さらに最近、1年以上飼育したのち脳の組織学的変化を観察しようとホモ変異体マウス頭部から脳を取り出そうとしたところ、野生型マウスと比較してホモマウスでは頭骨が極端に脆いという発見をした。このような異常は若いホモ変異体では観察されなかった。この遺伝子産物(イノシトールモノフォスファターゼ1 ; IMPasel ; 遺伝子名はImpa1/IMPA1)は気分安定薬として長く使われているリチウム塩の標的であるとする説が提起されているが、既知の生物学的機能からは骨の維持や代謝に関わることは全く想定されていなかった。申請者は上述のIMPaselの遺伝学的機能阻害モデルマウス(Impal^<T95K/T95K>マウス)を用い、今まで全く意識されてこなかった「細胞内イノシトール代謝回転と骨代謝の接点」をさぐる研究に取り組みたいと考えた。その結果は、未だ不明なリチウムの薬効発揮メカニズムを分子レベルで明らかにするヒントを与えてくれる可能性があるという意味で、臨床的にも重要な研究となる可能性を秘めている。リチウムには骨代謝に関与する副甲状腺の機能亢進と血中カルシウム濃度の上昇が報告されているため、Impalの欠損がリチウム投与時のように副甲状腺の機能亢進を及ぼし結果的に頭骨からのカルシウム放出を上昇させるため骨がもろくなるというなではないかと予測した。本研究ではImpal^<T95K/T95K>マウスの血中カルシウム濃度、無機リン濃度等を幅広く測定、検討したが、それらの値に特段の異常を認めず、副甲状腺の異常を示唆する知見も得られなかったことから、頭骨の脆弱性は別の生物学的メカニズムに基づくものである可能性が示唆された。本研究に関連して、鶴見大学の菅崎弘幸氏らと情報交換していたが、彼らはイノシトールの成長期のマウスへの投与が下顎軟骨の成長を促することを見出した(Bone 121, 181-190, 2019)ことから、今後は頭蓋骨を形成する上で重要な軟骨性骨発生への影響に関しても検討すべきであると考えられた。
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