2020 Fiscal Year Annual Research Report
メイフラワー・コンパクトにおける排除/包括の理論と環大西洋文化の再定位
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18H00654
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Research Institution | Seikei University |
Principal Investigator |
下河辺 美知子 成蹊大学, 文学部, 客員研究員 (20171001)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
巽 孝之 慶應義塾大学, 文学部(三田), 名誉教授 (30155098)
舌津 智之 立教大学, 文学部, 教授 (40262216)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | メイフラワー・コンパクト / 環大西洋文化 / 共同体と法 / 排除と包括 / ピューリタン研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
四年間のプロジェクトで開始した本研究であるが、2020年度は三年目にあたる。始めの二年間で、本研究の中心テーマであるメイフラワー・コンパクトの契約としての本質を共同体理論にもとめて議論してきたが、三年目にあたる2020年度にはこの契約が作られ署名された社会的・政治的・文化的経緯を歴史の中で確認しようと研究を進めた。その結果、メイフラワー・コンパクトの言語的・政治的・歴史的効果を十七世紀新大陸のみでなく、独立後の十八世紀、アメリカ拡張期の十九世紀、そして二十世紀から現在にいたるアメリカ文化の中で検証する方策と課題を浮き彫りにすることができた。 2020年1月に勃発したコロナ感染症のため、研究活動は空間的には大いに制限を受けた。しかしそれを逆手にとりオンラインを駆使して研究を進めることができた。研究会はズームにより三回実施した。「アメリカのネヘミヤとエズラが刻印したもの」(講師難波雅紀 2020年11月21日)、「アメリカン・サイエンスとパラノイド・スタイル」(講師入江哲朗 2021年3月26日)、「ハート・クレインー環大西洋の史学/詩学」(基調発表講師来馬哲平、大学院生ワークショップ)。研究代表者および研究分担者が各自行った研究実績としては、雑誌論文7点、学会発表9件(内招待講演3件)、図書7点となっている。 2020年6月には本プロジェクトの一つ前の基盤(B)の成果をまとめた『マニフェスト・デスティニーの時空間:環大陸的視座から見るアメリカの変容』(小鳥遊書房)を出版。また、巽孝之慶應義塾大学教授退職記念論文集の企画をスタートさせたことも2020年度の研究実績の一つであろう。アメリカ文学研究者のみでなくイギリス文学専攻の研究者にも寄稿をよびかけることで、本プロジェクトの基本方針である環大西洋的視座を浮き上がらせる企画が大きく動き出したことは特記しておきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
三年目にあたる2020年度はアメリカ的空間への囲いこみ運動の原点がメイフラワー・コンパクトの効果にあったとすれば、一方で、契約をとりかわすことで排除の機制が働いた事実も見逃せないという観点が得られ、新しい局面に至ることができた。研究代表者および研究分担者は国内外にむけてそうした視点に立った論文を発表し、英語での口頭発表で海外への発信も行った。図書に関しては、全プロジェクトの成果本『マニフェスト・デスティニーの時空間』(小鳥遊書房)を2020年6月に出版したが、本企画終了後に成果本を出す手順が再確認された。また、研究分担者の一人巽孝之は海外で出版された本二冊に共著者として英文論考を寄稿しており、国際的活動も活発に行うことができた。 コロナ感染症にたいする国内外の規制が、例えば出入国の際の隔離期間のしばりなどをもうけていることで2020年度に予定していた海外での学会発表を断念した事例が3件発生したことは残念であった。しかし、一方ではオンラインを使って海外の研究者との研究会を実施する方策もとれたので、今後はこうした機会を最大限に利用していきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年5月の現在、研究費の繰り上げ申請を行ったため、本プロジェクトは本来の四年計画から一年延長して五年をかけることになった。新型コロナ感染のため、研究体制において海外との関係に大きな影響がでているが、海外の学会などに参加したくても、入国時の自主隔離制限などで授業を行えないため海外での学会発表をあきらめたケースも出ている。しかし、一方ではオンラインを駆使することで海外の研究者を招いての研究会や情報交換などはこれまで以上に活動できる面もある。本年は、海外研究者とのオンライン研究会を一回、海外で研修中の日本人研究者を講師とするオンライン研究会を一回、そして、基調講演プラス院生によるワークショップという独自の研究会を一回予定している。また、個人的活動としては、慶應義塾ニューヨーク学院長としてアメリカに赴任中の巽孝之をはじめとして、海外での研究活動を再開できる見通しがたってきている。 研究内容としては、アメリカ的空間への囲いこみ運動の原点がメイフラワー・コンパクトの効果にあったとすれば、一方で、契約をとりかわすことで排除の機制が働いた事実も見逃せない。他者とは、いずれ包含されるべきものなのか、敵として攻撃しつづけるものなのか。排除/包含の理論の原型としてメイフラワー・コンパクトを位置づけ、そのレトリックがアメリカの歴史を稼働させてきたことを検証することにより、本研究が二十一世紀世界への提言を国際社会に発信できればと願っている。
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Research Products
(22 results)