2018 Fiscal Year Annual Research Report
研究職を離れた言語研究者が保持する言語データの適正再資源化のための基盤確立研究
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18H00661
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
加藤 重広 北海道大学, 文学研究科, 教授 (40283048)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
塩原 朝子 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 准教授 (30313274)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | データ保存 / 調査倫理 / デジタル化 / 言語学のSDGs |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,これまで言語研究者が蓄積してきたデータがポストを離れたり,物故したりした後に,再び入手できない貴重な資料が永遠に失われる事態を避けるための方法論や枠組みの基盤確立を目指すものである。その具体的な内容は,(1)言語データの管理方法論,(2)データ保存の技術的課題の整理と解決,(3)研究文化に関わるデータの個別的・全体的課題の3領域に分けられる。以下3領域の研究内容・作業工程・進捗状況を踏まえて,研究実績の要点を記す。 まず,言語データの管理に関する枠組みの研究においては,既存のデータの扱いにかかる倫理的な問題と,その対応策について,議論を進め,論点が明らかになっている。既存のデータも,調査協力者の承認状況に差異があり,現在とは個人情報や著作権にかかる意識が異なることもあって,一律に処理できないため,それぞれに細かにケースを分けて対応策をあらかじめ決めておく必要があり,その現実的な対応マトリックスを作成しており,完成し次第,成果として公開することを考えている。 第2領域となる,言語データ保存の技術的な課題については,可能な限り,既存のデータの提供を受け,保存対象データとして問題がなく,有効性が認められるかを確認するために,先行してデータ化を進めている。データはアナログであったものをデジタル化することで損耗なく半永久的に残すことができるが,デジタル化のレベルと形式の問題があることが判明している。現時点では,ご遺族に寄贈をうけた故湯川恭敏東大名誉教授のデータのデジタル化が終わり,菅原孝和京大名誉教授のデータのデジタル化を進めている。このため,アフリカの言語について保存管理が進んでいることになる。 第3領域となる研究風土の差異に基づく,データ保存の問題点は,各セクションでの論点整理が進んだ。事前に想定した地域差・領域差を確認し,方法論の差異の調査も一定の進捗を見た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は,(1)言語データの管理方法論,(2)データ保存の技術的課題の整理と解決,(3)研究文化に関わるデータの個別的・全体的課題の3領域に分けられるので,領域ごとの進捗状況と全体的な状況について記す。 第一領域(言語データの管理に関する枠組みの研究)では,論点整理と現状分析が終わり,それを成果として発表する準備を進めている。ただし,言語データの扱いについては,データ収集状況に関する時代や個々の研究者の倫理意識が異なり,権利や情報管理に関する考え方も変遷があることから,事前の計画よりも細かにケースを分け,その状況の記述と問題点の確認などに時間を要することが推測される。しかしながら,作業工程そのものは大きく遅滞してはおらず,全体的に見て問題なく進捗している。 第2領域となる,言語データ保存の技術的な課題については,方法論的な問題の整理ができており,既存のデータについても,ご遺族に寄贈をうけた故湯川恭敏東大名誉教授のデータのデジタル化が終わり,菅原孝和京大名誉教授のデータのデジタル化を進めている。このほかのデータもいくつか平行してデジタル化を進めている。全体としては,当初予定していた作業工程よりも作業量が増えているが,作業工程そのものは特に遅れがなく,成果は予定以上のアウトプットになるものと推定している。 第3領域の課題は,アフリカ諸語・日本語諸方言・オーストロネシア諸語などに分けて論点整理を進めており,それぞれの領域で相応の進捗が見られた。当初の計画では,この領域は工程の順序において優先せず,あとに回す予定であったことから,全体としてはやや予定より進捗していると言える。 第一領域・第二領域ともに,当初計画よりも作業量が増えているが,特段の遅れはなく,第三領域は予定以上の進捗が見込まれるので,計画以上の進捗状況とまではいえないものの全体としては順調に推移している。
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Strategy for Future Research Activity |
計画年度(4年のうちの)2年目にあたる今年度(2019年度)は,引き続き,第2領域における言語データのデジタル化を進めながら,データ処理手法の問題点などを明らかにしていくが,デジタルデータの形式の問題やデータ破損の復旧の問題にも取り組むことを考えている。アフリカ諸語から日本語諸方言やアジアの言語など,他の言語についても徐々にデータ化の準備を進める。 第一領域における研究倫理とデータ管理の関係については,整理した結果をマトリクスとして公開できる状況を目指している。少なくとも,研究倫理の一般論と,言語研究特有の問題については,論点整理が進んでいるので,いくつかの解決策を提案できるように進めている。必要に応じて,国内外の研究者にインタビューや知見提供を受けることも想定し,なるべく言語研究だけの課題に矮小化せずに,人文科学の研究全体あるいは科学研究全体に応用可能なものとして進めたいと考えている。あわせて,データの利活用の手法と権利の保護についても,明確にする必要があると判断しており,データ収集の状況との関係から論点整理を進める。 第三領域については,個々の分野ごとでの問題点が整理できているので,それを共通の課題や独自の課題として再整理する段階にさしかかっている。本研究計画では主に3つの大きなフィールド領域しか想定していないので,他のフィールドの研究者から知見や意見を徴する機会をどのように設けるべきか(個別調査かワークショップ形式か)などを早い時期に確定させ,その準備を今年度のうちに進めたい。 現時点の進捗状況では,4年の内の3年目で,おおよその成果は出そろうと思われるので,その段階では研究内容を拡張することや前倒しして早めることなどを検討したいと考えている。
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Research Products
(3 results)