2018 Fiscal Year Annual Research Report
フランス語圏における「パトワ(patois)」概念についての歴史・地理横断的研究
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18H00668
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Research Institution | Nagoya City University |
Principal Investigator |
佐野 直子 名古屋市立大学, 大学院人間文化研究科, 准教授 (30326160)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
糟谷 啓介 一橋大学, 大学院言語社会研究科, 教授 (10192535)
石部 尚登 日本大学, 理工学部, 助教 (70579127)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 「パトワ」 / フランス語圏 / 方言研究 / 言語名の自称・他称 / 「恥」の感覚 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、まず「パトワ」概念の歴史的な変遷と地域ごとの概念の相違点について、研究代表者・分担者・協力者と情報を共有し、確認することを中心に、各地の現地調査とそれに伴う国内会合を行った。 6月と11月には、メンバーのそれぞれの知見と今までの研究との関連について発表、重要文献の紹介のための会合を実施した。フランス革命前の「パトワ」概念の変遷、特に「パトワ」が他称から自称(話者自身の認識として「パトワ話者」が誕生)に移行する局面と、19世紀以降に「パトワ」概念が社会階層の問題から地域性の問題へと移行し、学術的な研究対象として注目される局面があったことが確認された。 2月から3月にかけて、各自のフィールドでの現地調査を行った。佐野直子はフランスオクシタン語地域とブルターニュの「ガロ語」地域、石部はベルギーのブリュッセル、糟谷は「ダイグロシア」概念の元となった言語状況であるアラビア語地域のエジプト、研究協力者の佐野彩はフランコプロヴァンサル地域のリヨンで、それぞれ研究所や図書館などでの文献調査を行い、3月にその成果に基づく報告と、次年度以降の研究計画を確認した。隣接するイタリア語やフランデーレン語で、「パトワ」を翻訳する際にかなり苦労していること、自称の「パトワ」に対する認識が地域や話者によって異なること、「パトワ」には「フランス語の崩れ」であり、すなわち言語接触に伴う混淆を意味することなどが確認された。「パトワ」という名称に対する話者の意識の問題、特に「愛着」と「恥」の感覚、また、都市名に「パトワ」を結びつけることが可能なのか、などについては、今後の調査課題となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まずはメンバーそれぞれの従来の研究でえてきた知見の共有をはかり、状況の把握に努めることと、歴史的資料の収集とその検討を初年度の目的としていた。その点は国内での3回の会合と海外調査によって、達成できたと言える。ただし、文献調査についてはまだ網羅的になったとは言えない点、「パトワ」概念はフランス語圏のみならずカリブ海地域やマカオにまで波及している一方で、フランス語圏アフリカ諸国ではほとんど見られないことなどから、フランス語圏にとどまらない幅広い資料の収集や調査が必要である点も確認された。「パトワ」概念は近年むしろ忌避される傾向もある中で、フランス語圏内外でどのような使用実践が見られるのかについて、調査方法を精査し実行することが次年度以降の課題である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、特に現在の「パトワ」概念の使用状況についての現地調査を、それぞれの調査フィールド地やフランス語圏外も含めて実践することを考える。そして、2019年度に実施した調査を元に日本で会合をして全体の構想を練り、2020年7月に開催される国際オクシタン語学会にて全員が発表する予定である。さらに2021年度には、それぞれの地域の「パトワ」研究者を招聘しつつ、日本の国語学・方言学者の方々もおよびしてのシンポジウムを行うことを計画している。
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