2019 Fiscal Year Annual Research Report
「国民共有の財産」としての公文書を適正に管理するための実務的及び理論的研究
Project/Area Number |
18H00705
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Research Institution | Chukyo University |
Principal Investigator |
矢切 努 中京大学, 法学部, 准教授 (70718759)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
酒井 恵美子 中京大学, 国際教養学部, 教授 (00217754)
手塚 崇聡 中京大学, 国際教養学部, 准教授 (30582621)
檜山 幸夫 中京大学, 法学部, 教授 (40148242)
桑原 英明 中京大学, 総合政策学部, 教授 (80225325)
東山 京子 中京大学, 社会科学研究所, 研究員 (80570077)
高田 倫子 大阪市立大学, 大学院法学研究科, 准教授 (80721042)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 国民の共有財産 / アーカイブズ / 公文書 / 私文書 / 文書管理 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度においても、研究分担者で各専門分野に基づく分担研究を行い、①各国の法や規定における「公文書」及び「私文書」概念の整理と、②国内外の文書管理担当部局における「公文書」及び「私文書」等の管理の実態について、自治体の特有性や財政面も視野に入れつつ、特に各自治体の特徴や具体的な取組等の調査を行った。また年間に7回の研究会を中京大学内で開催して、研究者間でのその調査内容を踏まえた問題意識や情報の共有、さらには新たな論点の設定を行った。 ①については、主に日本・カナダ・ドイツ等の「公文書」及び「私文書」概念の整理を行い、各国々での取り扱いの違いと、「公文書」と「私文書」の概念の相対性に関して、知識の共有を行った。②について、国外調査として、イタリアの地方自治体及び「私文書」を管理する機関、ローマのフィウメ文書館・博物館、モデナの国立文書館と市立文書館、ボローニャの国立文書館とエミリア・ロマーニャ文書館・図書館保護局、サンミニアートの記憶館と市立文書館において、文書保存管理の体制・所蔵文書の特徴と形態・課題等についての調査および所蔵文書の調査を行った。これによりローマのフィウメ文書館では、戦後、フィウメ・イストリア・ダルマチアから生還した市民からの個人資料を保存し、それらを活用し研究を進めていること、トスカーナ州のサンミニアートの記憶館では、第二次戦時下における記憶を後世に伝えるために当館を設立し、資料保存および公開促進に努めていること、また、ボローニャ・モデナ・サンミニアートのそれぞれの国立、市立の文書館においても、市民による文書館および文書館保存史資料の利活用のための工夫を行っていたことが明らかとなった。 これらの調査を踏まえ、国外事例を日本の議論に参照することの意義を研究者間で共有し、今後国外調査については、各種紀要等で報告する必要があることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究実績の概要で示したように、本年度は①各国の法や規定における「公文書」及び「私文書」概念の整理と、②国内外の文書管理担当部局における「公文書」及び「私文書」等の管理の実態調査を行ったところである。また合計して4回の研究会の中で、研究者間での問題意識や情報等の共有を行った。 当初の予定では、①については「『私文書』概念の曖昧性を明確化」と「『私文書』等の収集・管理に関する内外の比較研究を通じて、日本における『私文書』概念を定義する」ことまでを想定していたが、後者については「私文書」概念の定義化には至らなかった。また、②については、「自治体などの財政面も考慮しながら、その特徴や具体的な取り組み等を明らかにする」ことを想定していたが、具体的な取り組み等を明らかにするには至らなかった。そのため若干の遅れがあるが、次年度は「自治体などにおける文書管理の実態と、『私文書』を含む全ての文書を『国民共有の財産』として保存管理している諸外国の事例を踏まえた文書管理論を試作する」ことを想定しており、こうした試論の前提となる部分であるため、若干の遅れがあるものの、研究計画を変更しつつも、「私文書」概念の定義化と国内外の文書管理担当部局による具体的な取り組み等については、明らかにしておく必要がある。なお、国内では、2月及び3月に沖縄・九州等の国内調査を計画していたが、新型コロナウイルスの蔓延状況を受けて、出張計画を中止せざるを得なかった。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度も2019年度に引き続き、健全な民主主義国家のあるべき文書管理の姿を提案するため、①主に日本・カナダ・中国・イタリア・台湾の法や規定における「公文書」及び「私文書」概念整理を主に行っていく。もっともこれらの諸国の事例も含めつつ、2019年度に不十分であった「『私文書』等の収集・管理に関する内外の比較研究を通じて、日本における『私文書』概念を定義する」ことについても検討していく予定である。②国外調査では、ドイツ・イタリア・カナダの文書管理担当部局における「公文書」及び「私文書」等の管理の実態調査を、国内では、沖縄・九州・東北・関西地方の自治体の文書管理担当部局について、特に、各施設の政治的・財政的な問題を含め、首長の方針(政治的指針)・組織 (担当部局)・人員配置(文書管理に携わる職員の人数や常勤・非常勤の比率等)・専門職員の有無(及びその権限と求められる能力)などを中心に調査を進める予定である。また各施設の「公文書」と「私文書」との選別や収集・保存・公開のあり様などについての聞き取りを行い、地域の特有性や伝統、さらには政治的・財政的状況に基づく「公文書」・「私文書」の取り扱いや、文書管理のあり様の実態調査等を進める予定である。最終的に①と②を踏まえて、「自治体などにおける文書管理の実態と、『私文書』を含む全ての文書を『国民共有の財産』として保存管理している諸外国の事例を踏まえた文書管理論を試作する」予定である。ただし、新型コロナウイルスの影響を鑑みて、特に実態調査に関しては、研究方法の大幅な修正も行う必要があると考えている。状況の変化に対応することにはなるが、当初予定していた学会、研究会、インタビューについては、オンラインで行うことも検討している。
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Research Products
(2 results)