2018 Fiscal Year Annual Research Report
Study on the system of sharing, inheritance and transfer of pottery production technology
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18H00738
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
田崎 博之 愛媛大学, 埋蔵文化財調査室, 教授 (30155064)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大久保 徹也 徳島文理大学, 文学部, 教授 (30309695)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 土器生産 / 生産集団 / 技術の共有化 / 技術の維持と伝達 / 弥生時代 |
Outline of Annual Research Achievements |
①資料の調査と分析 土器生産技術の共有化と維持・伝達を考察するため、「限られた集団によって製作された」と考えられる土器群として、まず土器づくりの場に廃棄された焼成失敗品を取り上げた。具体的な資料は、愛媛県文京遺跡12次調査SK-21と23次調査SX-16(弥生中期後葉)、福岡県迫額遺跡土壙24(弥生後期初頭)出土の焼成失敗品を含む土器群であり、形状や調整痕跡、施文手法に着目して分析を行った。また、画一性の高さから特定の限られた遺跡もしくは遺跡群で生産されたと考えられる香東川下流域産土器群(弥生後期中葉~終末)について、製作技法・手順・胎土的特徴を観察し分析を進めた。分析に供した資料は、高松平野域の27遺跡約900点、徳島・岡山県域の41遺跡の約1500点である。一部については薄片プレパラートを作成し岩石学的観察を行った。加えて、土器焼成失敗品の出土を確認できた石川県八日市地方遺跡(弥生中期中葉と後葉)と、大阪府上の山遺跡(弥生中期前葉)の資料の予備的な調査を行い、次年度の本格的な資料調査と分析にそなえた。 ②研究集会での分析結果の検証と意見交換 研究代表者・分担者・協力者が参画する研究集会を計3回開催した。岡山大学での第1回研究集会においては、研究目的・内容の共通認識を得るとともに、分析資料を絞り込むことができた。香川県埋蔵文化財調査センターで開催した第2回研究集会では、香東川下流域産土器群について、成形・整形・調整痕跡の観察、製作手順の復元、胎土類型について実物を観察しながら検討した。第3回研究集会は愛媛大学で開催し、文京遺跡出土の土器焼成失敗品を観察し、分析結果について論議した。加えて、筑前町文化財収蔵庫で実施した迫額遺跡出土土器群の資料調査では、分析成果の中間成果、分析方法についての意見交換を行い、問題点の整理、問題解決のための方策を検討することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
①文京遺跡12次調査SK-21と23次調査SX-16出土資料の分析と問題点:底部の成形、胴部から頸部の形状、突帯の有無、突帯に施された刻目の原体を指標とする微細分析で、SK-21の土器焼成失敗品を2グループに分け、その類縁性から「流派」と呼べる工人集団の下位レベルの単位が集合し工房を共有する土器づくりを推定した。SX-16の資料からは独立した製作の場を持っていたことを考えた。研究集会では、土器焼成失敗品の出土は土器づくりの工房に直結せず、廃棄状況の詳細な確認が必要であるとの意見が出された。また、工人集団、工房、流派などの用語を整理することが不可欠であるとの認識を共有できた。 ②迫額遺跡土壙24出土資料の観察結果と分析の中間成果と今後の課題:器種の違いを超えて、刷毛目調整の特徴と、素地や混和剤の胎土的特徴の組み合わせから、5つの土器グループを認識でき、工人集団の違いを示すものと推定した。意見交換では、胎土の肉眼観察結果の客観性をどのように担保するのかとの意見が出された。 ③香東川下流域産土器群の分析と問題点:香東川下流域産土器群の分析では、画一性の高い甕・高坏が弥生後期中葉~後期末葉にわたって生産され、この間、特徴的な胎土調合パターンが香東川下流域産土器群に限って観察されることを明らかにできた。胎土に混合された砂粒は全般的に円磨度が低い中粒砂~細粒砂が選ばれており、自然礫を破砕して混合砂粒を製造した可能性が高い。素材の調達を含めた土器製作技法が複数世代にわたって厳格に「伝達」されていることを推定した。研究集会では、消費地での現象面を、生産の場における技術の共有化と維持・伝達のメカニズムと、どのように結びつけながら考察するか、方策を練る必要があるとの意見が出された。 以上、資料調査を順調に行えており、研究の課題も明確にできている。研究はおおむね順調に進捗していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
3回の研究集会の論議と資料調査時の意見交換で、本研究を進めていく上で解決すべき問題点を整理できた。2019年度には、資料調査を継続するとともに、問題解決に向けた以下の対応策を検討会で再確認しながら研究を展開させる。 ①研究代表者、分担者、協力者でイメージが異なる土器生産に関わる用語の整理:生産工房をどのように捉えるかで、共同体の捉え方も異なってくる。用語の整理は不可欠で、年度当初に開催する研究集会においての論議で、共通認識を形成する。 ②胎土の肉眼観察結果の客観性の確保:土器胎土に含まれる砂粒の定性的な特性や組成を肉眼で観察するとともに、マイクロスコープによる観察と記録化を進める。昨年度に引き続き胎土分析を実施し、肉眼、マイクロスコープ観察の結果を突き合わせ、観察結果の客観性を担保する。 ③工人集団の復元と、技術の共有化と維持・伝達の考察に向けた具体的方策:以下、a)~d)の4つの課題解決の方策を考えている。a)焼成破裂土器片と焼成時破損土器Ⅱ種に絞り込み、失敗品が一括廃棄された遺構での出土状況や、遺構配置や未焼成の泥土塊の出土から、工房域を推定する。その際、煮炊き痕跡のある土器は検討資料から排除する。b)土器焼成土壙の中に失敗品が一括して残されている可能性が高い岡山県百間川・原尾島遺跡の資料の調査と分析を行い、他の遺跡との比較検討を行う。c)石川県小松市八日市地方遺跡で昨年度確認できた「限られた集団が製作したと考えられる弥生中期中葉の小松式の壺群」について、 身体技法の共有と継承の視点で分析を行い、工人集団の実体を考える。d)消費地の出土資料であっても、画一性が高く「限られた集団によって製作された」と認定できる資料の分析対象と、社会組織と連関させて説明する際に演繹的アプローチを試行する。
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Research Products
(5 results)