2019 Fiscal Year Annual Research Report
北海道東部根釧台地の最終氷期以降の湿原形成史と植生変遷
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18H00762
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
冨士田 裕子 北海道大学, 北方生物圏フィールド科学センター, 教授 (50202289)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
百原 新 千葉大学, 大学院園芸学研究科, 教授 (00250150)
井上 京 北海道大学, 農学研究院, 教授 (30203235)
紀藤 典夫 北海道教育大学, 教育学部, 教授 (30214836)
近藤 玲介 皇學館大学, 教育開発センター, 准教授 (30409437)
吉田 明弘 鹿児島大学, 法文教育学域法文学系, 准教授 (80645458)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 地形発達史 / 花粉分析 / 大型植物化石 / 堆積学 / ルミネッセンス年代測定 / 湿原植生 / 泥炭 / 完新世 |
Outline of Annual Research Achievements |
落石湿原と歯舞湿原において当初2018年度に予定していた機械式ボーリングを7月に実施し、計4本のコアを採取した。得られたコア試料について各種分析を進めた。 歯舞湿原では、DEMや空中写真判読などによる地形の検討結果に基づき測線を設定し、6月および7月に地形測量、植生調査、多地点での層序記載および試料採取を実施した。これらのデータから歯舞湿原表層の断面図を作成した結果、歯舞湿原はブランケット型泥炭地である可能性が示唆された。そこで、数値情報データに基づき、北海道内においてブランケット型泥炭地の形成条件に該当する地域の抽出を行った。あわせて植生調査を行った結果、植物群落の分布は基盤上に長期にわたり形成された堆積物と微地形に起因する水文環境等に規定されると推定された。歯舞湿原における大型植物化石分析の結果、摩周jテフラよりも下位の層準でグイマツが多産する層準が確認され、それよりも上位ではスゲ属が比較的多く産出することが明らかになった。浜中町の湿原で得た試料の花粉分析の結果、湿原は段丘面上の凹地に形成された水域に始まり、泥炭層形成以降は中間湿原を維持し、地表に向かってミズゴケが増加することが明らかとなった。 湿原の基盤地形である海成段丘を対象とした地形・地質調査を行った。テフラ層序やpIRIR年代測定の結果、歯舞湿原や落石・浜中の湿原群が分布する段丘面は酸素同位体ステージ7ないし9に離水した可能性が高いこと、MIS5の末期~4初期にも泥炭の堆積期があること、MIS2には強力な周氷河作用が寄与したこと、MIS2末期~MIS1初頭には段丘上の広域において湿地環境となっていたことが明らかとなった。 2020年2月に、別海町茨散において機械式ボーリングを実施し、総長23mのコア試料を得た。記載の結果、泥炭などの陸成層と海成層のサイクルが複数回認められた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年7月に歯舞湿原と落石湿原で、前年度地震の影響で延期した機械式ボーリングを実施した。また、当初より予定していた当年度分の機械式ボーリングを、別海町茨散で2020年2月に実施した。 6月および7月に歯舞湿原で地形測量、植生調査、検土杖とハンドボーリングによる堆積物調査および試料採取を合同で実施し、湿原表層の断面図、地形分類図を作成した。その後、各分担者が個別に野外調査を実施した。浜中町の段丘上の湿原においてもハンドボーリングを実施し浜中町~落石岬周辺~根室半島周辺では、湿原が分布する海成段丘の広域にわたる野外調査も行った。 機械式ボーリングコア試料、ハンドボーリング試料の花粉分析、大型植物化石分析、AMS14C年代測定、ルミネッセンス年代測定など各種分析も順調に進んでいる。浜中町の湿原から得たハンドボーリングコア試料からは花粉分析によって湿原の植生変遷と堆積環境を考察した。歯舞湿原から得たコア試料からも大型植物化石分析によって同様に植生変遷と堆積環境を推定した。歯舞湿原から得た検土杖試料より50試料を超えるAMS14C年代測定を行った。また、海成段丘堆積物および被覆層のルミネッセンス年代測定も20試料程度おこない、編年結果は学会で公表した。機械式ボーリングコア試料は、記載の後に分担者共用データとして各種基礎物性値の測定を行い、分担者による各種分析に供され、計画通りに分析は継続している。 2019年9月に根室市の小中学校で、本研究成果の一部を用いたアウトリーチ活動を行い地域に貢献した。
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Strategy for Future Research Activity |
歯舞湿原については、地下水位変動の連続計測や植生、堆積物に関する追加の現地調査を実施し、道内の他の泥炭湿地との水文環境条件や植生、この地域特有の海霧の発生が湿原形成に及ぼす影響などについて検討し、歯舞湿原が日本で唯一のブランケット・マイヤーであるかどうかを多角的な視点で検証する。 古植生と植生変遷に関しては、落石湿原、歯舞湿原、茨散でこれまで実施した機械式ボーリング試料・ハンドボーリング試料の花粉分析、大型植物化石分析を継続し、各湿原の形成史や植生変遷とともに、根室半島周辺地域の植生変遷や気候変化との関係を考察する。同時にコア試料を対象としたAMS14C年代測定を高密度に行うとともにテフラ対比のための分析も進め、植生変遷史の復元の基礎データとする。あわせて珪藻分析などの堆積環境推定のための分析もおこなう。 これまでに露頭やコアから得られた試料のルミネッセンス年代測定を行い、海成段丘の離水年代やその後の周氷河作用や河川作用・テフラの降下などによる段丘面上の堆積環境の変遷史を絶対年代に基づき明らかにする。海成段丘上の開析谷の発達と泥炭堆積の関係を検討するための野外調査を行うとともに、コア試料に見いだされた未知のテフラの対比を行うための模式試料の記載と採取をおこなう。 すべての調査・分析結果および考察を統合し、海水準変動の影響を受けない段丘上で晩氷期から形成が始まった湿原において、現在に至るまでの植生変遷と、古環境変遷・堆積環境史・地形発達史との関係を明らかにする。さらに周辺の沖積低地の湿原と比較検討し、北海道の第四紀後期以降の湿原形成に関わる古環境と現在の湿原環境の関係を解明する。
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Research Products
(2 results)