2019 Fiscal Year Annual Research Report
南海トラフ地震発生時における効果的な救援物資輸送実現のための地理学的研究
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18H00772
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
荒木 一視 立命館大学, 食マネジメント学部, 教授 (80254663)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中村 努 流通経済大学, 経済学部, 准教授 (00572504)
楮原 京子 山口大学, 教育学部, 准教授 (10510232)
田中 耕市 茨城大学, 人文社会科学部, 教授 (20372716)
佐々木 達 宮城教育大学, 教育学部, 准教授 (40614186)
熊谷 美香 弘前大学, 医学研究科, 助教 (60527779)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 救援物資 / GIS / 南海トラフ地震 / 地理学 |
Outline of Annual Research Achievements |
①自然地理学,②人文地理学,③GISのという3つのアプローチから,前年度の予察的な検討や調査を踏まえ,より精緻な研究にとりくんだ。 ①では楮原が昨年度整備を進めた地形データを基にした解析および斜面崩壊の事例研究を行った。紀伊半島における年代の異なる写真から生成した地形データの差分からは,解像度が低い状況ではあるが,地表形態の変化が大きい領域を捉えることができた。 ②では中村が津波の長期浸水が想定される高知県沿岸自治体の共助に基づく地域防災の取組みが,いかにして展開されてきたのかをヒアリングをもとに明らかにした。 特に災害発生直後の要支援者に対する救援物資配送計画および避難行動計画のそれぞれを検討し,共助の果たす役割と限界,今後の課題解決に向けたアプローチを提示した。また佐々木は災害発生時に物資が届かない場合のどのくらいの食料需要が存在するのかを把握するために,和歌山県を事例に輸送ルートが遮断された場合に孤立が予想される山間部の農業集落の状態を考察することで,今後の分析課題を示した。加えて荒木は和歌山県の過去の災害記録を紐解くことから,当該地域における救援物資輸送における課題を明らかにするとともに,時代背景の変化の中での適切な救援体制のあり方を提起した。 ③では田中が徳島県庁および一部の沿岸自治体と自主防災組織代表への聞き取り調査を実施して,普段の防災活動や有事に備えた備蓄状況や救援物資の供給・配布体制について明らかにした。また,広域災害の事例として,令和元年東日本台風による水害の被災前後の人的・物的流動についても調査した。また,熊谷は和歌山県を対象として年齢構成や集落の分布状況に応じた被災地での物資需要を想定する地理的情報プラットフォームを構築した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
年度前半までは概ね順調に研究を進めることができたが,年度後半にはコロナウィルス感染症の拡大を見て,部分的に思うような研究を実施することが困難になった。具体的には3月に予定されていた学会が中止になるなどの影響を受けて,研究成果の発表が行えなかったことなどである。 本年度は初年度の予察的なアプローチを踏まえて,実質的な調査研究(特に個別の事例研究)を本格化することを計画しており,メンバーはそれぞれ自然地理,人文地理,GISの立場から取り組みを開始した。当初の研究計画では当年度と次年度が主たる調査研究に充てられており,その意味では一年目としては概ね順調に進行したと評価できる。詳細は「研究実績の概要」に示したとおりであり,後述の「研究発表」のリストにもあるように,学会発表を含めて一定の成果の発表も行うことができた。 しかしながら,年度の終盤におけるコロナウィルス感染症の拡大に伴い,一部の研究計画の実施が困難になった。感染症の拡大に伴う学会の中止で予定した発表ができなくなったことのほかに,物理的に調査地に入ることが困難になったことが挙げられる。年明けに計画していた和歌山県や四国南部での調査は,県境を跨いだ移動などへの懸念,特に感染の広がる都市部からの移動を控えるべきという状況から,中止をせざるを得なくなった。調査時期の延期という選択も保持しつつ,状況が短期的に改善できない場合も想定しておくべきであると考える。具体的には「今後の研究の推進方策」にしめすが,理論的観点からの検討,マクロスケールでの検討の比重を大きくして,実施が困難な現地調査を伴う個別の事例研究を補うというものである。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度に引き続いて調査研究を本格化させる。具体的には自然地理学の立場からは,楮原が本年度に取り組んだ地形データを基にした解析および斜面崩壊の事例研究から捉えられた変化についてその要因の分析を進める。人文地理額の立場からは,中村が主に四国高知県を事例とした検討,佐々木と荒木が主に和歌山県を事例とした検討を進める。同様にGISの立場においても,田中が主に四国徳島県を対象とした検討,熊谷は和歌山県を対象とした検討を進める。例えば,熊谷においては本年度に構築したプラットフォームを用い,年齢階級別人口構成を1小字レベル、2大字レベル=江戸期藩政村、3明治行政村、4昭和合併期、5平成合併期の5階層の地理的分析単位で の情報整備を行うための手法の妥当性を検証した。次年度はさらに道路情報の整備とともに輸送シミュレーションを行い、立地-配分モデルに基づき最適地と現状について解析する,などである。 一方で,当該年度中に感染が拡大した新型コロナウィルス感染症の影響が次年度以降にも及び,研究活動が制約を受けることが懸念される。これに関しては以下のような対処を取るつもりである。すなわち,本研究を構成する三つの観点である理論的観点からの検討,マクロスケールでの検討,及び個別のケーススタディでの検討のうち,最も大きな影響を受けるのがケーススタディの部分であると考える。一方で,理論部分とマクロスケールでの検討の部分はコロナ禍であっても研究をすすめることが可能と考える。状況に応じて,観点の比重を調整することで,当初の目的を達成できるようにとりくみたい。
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Research Products
(13 results)