2020 Fiscal Year Annual Research Report
pharmaceutical innovation and incentive
Project/Area Number |
18H00854
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Research Institution | Tokyo Keizai University |
Principal Investigator |
長岡 貞男 東京経済大学, 経済学部, 教授 (00255952)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
西村 淳一 学習院大学, 経済学部, 教授 (40612742)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 創薬 / イノベーション / インセンティブ / 薬価 / 知的財産 |
Outline of Annual Research Achievements |
新薬の比較薬に対する価格プレミアムを、日米欧のマッチト・サンプルによって分析し、先行研究(Comonar他(2018)の研究)の問題を明らかにし、研究を拡張した。(1)先行研究では、日英のマッチト・サンプルによって、政府機関による費用対効果が大きな影響をもっている英国と、市場原理による米国とで非常に類似した価格形成となっている(新薬の既存薬に対する価格プレミアムがほぼ等しい)と結論づけているが、本研究では正式な参照価格制度が無い英国でも米国薬価との差が重要な影響を与えていることを見出しており、また新薬の価格プレミアムも米国とは有意に異なることを見出している。(2)本研究では、日、独、仏もカバーしており、いずれの国でも新薬の既存薬に対する価格プレミアムは米国よりも小さく、同時に、比較薬における米国薬価の相対的水準(米国の方が高い)も新薬の薬価に有意に影響を与えていることも見出した。米国の新薬プレミアム及び米国の比較薬の薬価比率が、国内の新薬プレミアムに反映される程度は、ともに日本で一番小さい。(3)最後に、初期価格だけではなくパネル・データで推定しても、ほぼ同様の結果が得られた。 第2に、新型コロナウイルス危機に対する創薬イノベーション(ワクチン及び既存薬のリパーパシング)の動向を、WHOの臨床試験データ等によって分析し、日本の創薬の課題を指摘した。日本では、有望な治療薬候補と認識されているアビガン(ファビピラピル)、アクテムラ(トシリズマブ)、ストロメクトール(イベルメクチン)、そしてフオイパン(カモスタット)を創製した実績があるが、これらの既存薬のリポジショニングでも、また新薬の開発においても臨床試験への着手が遅く、規模も小さく、国際的な共同治験のイニシアチブも見られないことを指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
IQVIA社から導入した日米独英仏の医薬品(有効成分及びブランド単位)の薬価パネルデータと、世界での売り上げ額上位300医薬品をマッチし、加えて日本の薬価算定データとマッチし、一日薬価ベースで、各国の新薬と比較薬の価格のパネルデータを構築した。このデータを利用して、新薬の国際的なマッチト・パネルデータについて、各国の価格プレミアム(新薬と既存薬の間の価格差)、及び日欧4ヶ国の既存薬の米国薬価との薬価比率のデータを求めて、各国で新薬の価格が既存薬と比較してどのように形成されているかの分析を行った。研究成果は政策研ニュース(No.62 2021年3月)で公開した。 日本のNME(新規有効成分含有医薬品)について、その発明が米国特許等において引用している科学技術論文についての包括的なデータをClarivate社から導入した。これを活用して、各医薬品が、有効成分単位で、物質特許、結晶特許及び用途特許において引用している学術論文の数、その被引用数、学術論文発刊と特許出願との間のラグ等のデータを構築した。 新型コロナウイルス危機に対する創薬イノベーションでは、既存治療薬のリパーパシングも重要である。それには、機会の発見とともに検出力の高い臨床試験が重要であるが、臨床試験の相別データを構築して、それが起きているのかどうか、及びその決定要因の分析を進めた。研究成果は日本応用経済学会秋大会で報告した。
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Strategy for Future Research Activity |
1.構築した日米独英仏の医薬品の薬価マッチト・パネルデータによって、価格ダイナミクスの国際的差の原因を分析する。薬価規制(保険収載への交渉)の適用とその変化(「実勢価格」の公定価格への反映、拡大再算定など)、競争(疾患内、作用機序内、有効成分内、後発品や並行輸入)、等の取引価格への影響の分析を行う。 2.価格プレミアム(新薬と既存薬の間の価格差)の国際的なマッチト・パネルデータによる分析を更に進める。日本で類似薬効方式の場合に加えて、原価算定方式についても、英国等におけるICER算出等のデータから同様のペアの識別が出来ないかを検討する。 3.構築した医薬品の革新性を評価するデータベースを利用して、各国で、医薬品の革新性がどのように評価されているかを、医薬品のライフサイクルの視点で評価する。各医薬品の作用機序における順位データ、医薬品特許のサイエンス・リンケージに加えて、医薬品の革新性を評価する補完的な評価データの収集を行う。 4.疾患別死亡率、入院患者の治癒率等を成果指標とした医薬品ストックの経済効果の分析を発展させる。健康寿命への効果を計測するために、各疾患が介護要因になる確率、死亡可能性に重大な影響がある重篤疾患に罹患する年齢等のパネルデータの開発が可能かを検討する。 5.世界での売り上げ額上位300医薬品でも、日本市場で未上市となっている医薬品も少なくない。予想される薬価の水準が低いこと、また残された特許保護とデータ保護期間が限定的であることがその要因の一つとなっている可能性があり、開発したデータでどのような分析が可能かを検討して分析を試みる。また、COVID19に対応した、既存薬のドラッグ・リパーパシング及びワクチン開発の動向を分析し、特許権の影響等を分析する。
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Research Products
(4 results)