2020 Fiscal Year Annual Research Report
利益情報の役割の再検討:収益性とリスクの評価に関する総合的研究
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18H00913
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
椎葉 淳 大阪大学, 経済学研究科, 教授 (60330164)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高橋 邦丸 青山学院大学, 経営学部, 教授 (10276016)
村宮 克彦 大阪大学, 経済学研究科, 准教授 (50452488)
乙政 正太 関西大学, 商学部, 教授 (60258077)
首藤 昭信 東京大学, 大学院経済学研究科(経済学部), 准教授 (60349181)
佐々木 郁子 東北学院大学, 経営学部, 教授 (90306051)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 利益情報の役割 / 変動する割引率 / 事業投資 / 金融投資 / 現在価値関係 / リスク / 財務諸表分析 / 組替財務諸表 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,収益性とリスクの両面から利益情報の役割を再検討することである。このために本研究では,割引率が変動することを前提に,事業投資と金融投資を区別した概念的・理論的なフレームワークを構築したうえで,財務会計と管理会計の実証研究を実施する。本研究の特徴は第1に,事業投資と金融投資の総合的成果に焦点を当てる株主・投資家の視点ではなく,企業(エンタープライズ)の視点から企業価値評価モデルと資産価格モデルを拡張した新しい実証研究のフレームワークを提示することにある。第2に,資本コストについての新しい指標を定量化した上で,実証的証拠を提示することである。第3に,事業活動における会計情報の役割という側面は管理会計分野と密接に関連していることから,財務会計と管理会計の連携を意識して,利益情報の役割を再検討することである。 2020年度の実績としては,第1に2019年度から進めているWP「エンタープライズ・レベルのリターンの変動要因」について,米国データを用いた実証分析を行ない,共同研究者と議論しながら研究を進めた。 第2に,日本の株式市場においてバリュー株(高B/P銘柄)の平均リターンが高くなる理由を検証した論文「日本市場におけるバリュートラップ: 会計原則の影響に基づく説明の検証」を公表した。この論文では,日本のバリュー株(高B/P 銘柄)の期待利益成長率が高く,その成長が実現しないリスクも高いことを発見した。この結果は,事業リスクが高く保守的な会計処理を行う企業の株式がバリュー株に該当し,その高リターンはリスクに見合った報酬であることを示唆している。 第3に,主要顧客の比率といった企業特性が,コスト構造に与える影響,およびその結果として事業の収益性とリスクに与える影響についての実証研究を進めた。特に,これまで収集していなかった非製造業の主要顧客データの整理に時間を費やした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の第1の研究目的は、事業投資と金融投資を区別した収益性とリスクの両面からみた利益情報の役割を検討する新しい実証研究のフレームワークを提示することにある。具体的には、事業投資と金融投資の区別を明示的に取り入れることで、企業価値評価モデルの一種である現在価値恒等式と、投資ベースの資産価格モデルを拡張する。このことは、事業投資と金融投資の総合的成果に焦点を当てる株主・投資家の視点から、企業(エンタープライズ)の視点への転換を意味するものである。 この研究について,これまで日本企業データに限定した実証研究を行なっていたが,2020年度は米国データを用いた実証分析を行ない,共同研究者と議論しながら研究を進めた。ただし,米国データの整理には予定よりも時間がかかり,論文としてまとめるには至らなかった。 また研究実績の概要に書いた通り,主要顧客の比率といった企業特性がコスト構造に与える影響に関する研究では,これまで収集していなかった非製造業の主要顧客データの整理に時間を費やした。2000年から2015年までの16年間のデータについて,ほぼ収集が終わった段階である。 この他、日本の株式市場においてバリュー株(高B/P銘柄)の平均リターンが高くなる理由を検証した論文「日本市場におけるバリュートラップ: 会計原則の影響に基づく説明の検証」を査読付き雑誌に公表することができた。 以上,3年目の段階としては,米国企業データの整理と非製造企業の主要顧客データの収集に多くの時間をかけたことから,アウトプットがやや少なくなったことは反省点であり,進捗はやや遅れていると判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は第1に,企業(エンタープライズ)の視点からの現在価値恒等式について、日本企業データを用いた実証分析に関する論文を学会で報告し,同時に米国企業に関する実証分析も進めて,査読付き国際ジャーナルに投稿できる論文を執筆する。 また,現在価値恒等式には経済学的な背景が存在していないが,それを与える投資ベースの資産価格モデルと組み合わせて、理論的・実証的研究を進展させる。 また,売上高の10%以上の販売先として定義される主要顧客情報について,非製造業の企業についてもデータの収集が進んでいるので,製造業と非製造業のサンプルについての分析を行なう予定である。具体的には,主要顧客を有する企業のコスト構造に関する実証的な検証に関する過去のWPとなっている論文を改訂する予定である。 この他、併用方式に関する企業価値評価に関する研究についても,これまではTOBサンプルに基づく検証をしていたが,長期間の上場企業をサンプルとした検証も行う予定である。これは本来2020年度に進める予定であったが,主としてデータの収集に時間を使ったため,2021年度に取り組む予定に変更したものである。
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Research Products
(4 results)