2018 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
18H01177
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
笠原 成 京都大学, 理学研究科, 助教 (10425556)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 銅酸化物高温超伝導体 / 擬ギャップ相 / 電子ネマティック転移 / 回転対称性の破れ / 磁気トルク |
Outline of Annual Research Achievements |
銅酸化物高温超伝導体の30年に渡る膨大な研究において、アンダードープ領域に広く出現する擬ギャップ状態の解明は、現代物理学における最重要課題の一つである。本研究では、近年、新たな展開を迎えている銅酸化物超伝導体の擬ギャップ問題に対し、最高感度の磁気トルク測定を駆使することで、擬ギャップ状態における相転移現象と対称性の破れを解明することを目的としている。 本年度の研究では、正方晶構造を有する銅酸化物高温超伝導体HgBa2CuO4+d (Hg1201)において、面内磁気トルクの精密測定を行ない、常磁性磁化率の面内異方性の有無とその温度依存性の精査を行った。その結果、擬ギャップ温度T*において有限の異方性が発達し、電子系が格子系の回転対称性を破る電子ネマティック転移が起きていることが明らかになった。特に注目する点として、Hg1201ではCu-O-Cuのボンド方向から45度傾いたB2g対称性をもったネマティシティが発達しており、これは、これまでにYBa2Cu3O6+dで観測されているB1g対称性をもったボンド方向へのネマティシティとは明確に異なるものである。更にHg1201では低温で電荷密度波状態が形成されるに伴って、ネマティシティの発達が抑制される振る舞いが見られた。これは擬ギャップ状態と電荷密度波が競合関係にあることを示しており、擬ギャップ状態の起源が電荷密度波のそれとは異なることを示唆する。一連の結果は、擬ギャップ状態の微視的起源を明らかにする上で極めて重要な結果と考えられる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
Hg1201の擬ギャップ状態において回転対称性を破る電子ネマティック転移が明らかになり、さらにそのネマティシティの発達は、Cu-O-Cuボンド方向から45度傾いたB2g対称性を有することが明らかになった。これらは研究開始当初の予想を超えるものであり、擬ギャップ状態の微視的起源を明らかにする上で極めて重要な結果と考えられる。従って計画は当初の計画以上に進展している。
|
Strategy for Future Research Activity |
正方晶構造をもつHg1201について、磁気トルク測定による回転対称性の破れの検証を継続するとともに、他の銅酸化物高温超伝導体の測定にも取り組んでいく。また5d系層状ペロブスカイト酸化物であるSr2IrO4について、回転対称性の破れの検証に取り組んでいく。この系は、銅酸化物超伝導体と類似したペロブスカイト構造を持つことに加え、強いスピン軌道相互作用によって反強磁性モット絶縁体状態を示すことが知られている。更にIrサイトをRhで部分置換したSr2(Ir1-xRhx)O4では、ごく最近の実験から隠れた秩序と呼ばれる未知の秩序相が反強磁性モット絶縁体相よりも高温で実現している可能性が指摘されており光学第二高調波の実験から面内回転対称性の破れが、偏極中性子散乱の実験から時間反転対称性の破れが議論されている。これらの特徴は、銅酸化物超伝導体の擬ギャップ相におけるものと酷似しており、Sr2(Ir1-xRhx)O4の隠れた秩序相の存在と回転対称性の破れを熱力学的プローブによって検証することは、銅酸化物超伝導体の擬ギャプ相にも密接に関連する新たな問題と考えられる。
|
Research Products
(12 results)