2018 Fiscal Year Annual Research Report
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18H01191
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
吉岡 伸也 東京理科大学, 理工学部物理学科, 准教授 (90324863)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | バイオミメティクス / ナノパイル構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
生物が持つ微細な表面構造は自己組織化過程によって形成される。そのため熱揺らぎに起因する構造の乱れや不規則性が必然的に存在する。興味深いことに、そのような乱れの存在にもかかわらず、表面構造は複数の機能を発揮する場合がある。例えば、ガの複眼やセミの翅には、数百nm程度の間隔で配列した小さな突起構造が存在することが知られており、モスアイ構造、あるいはナノパイル構造と呼ばれている。この構造は、光の反射を抑制する反射防止効果、水滴をはじく撥水効果、さらには他の昆虫を上に登らせない滑落効果を持っている。本研究では、このような多機能性が乱れや不規則性の存在にもかかわらず生み出される原理を明らかにすることを目的として実施している。 今年度は走査プローブ顕微鏡(原子間力顕微鏡)を新規に導入し、装置の立ち上げを行った。特に、顕微鏡の探針となるカンチレバーに関しては、いくつかのタイプを試験し、試料に対して適切なものを選定した。その後、ミンミンゼミとアブラゼミの翅に対して予備的な観察を行った。二種類のセミの翅の表面にあるナノパイル構造を観察したところ、アブラゼミの突起の間隔はおよそ1.5マイクロメートル、ミンミンゼミの場合には300ナノメートルであり、大きな差があることが分かった。さらに、突起の高さについても二つの種類では数倍程度の差があることが分かった。また、滑落性を評価するために、数種類の昆虫を歩行させる実験をおこない、二種類の翅において違いがあることが分かった。 また、微細構造の不規則性が光学特性に与える影響を調べるため、コロイド粒子の球状凝集体に関する研究を並行して行っている。こちらに関しては、凝集体の結晶ドメインの配向の差により、反射の特性が大きく異なることを明らかにし学会発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度新規に導入した走査プローブ顕微鏡は順調に稼働しており、既に予備的なデータが得られれている。また得られたデータの解析方法の開発は順調に準備が進んでおり、突起構造の不規則性の評価方法が確立されつつある。また、並行して行っている不規則性な微細構造が示す光学特性に関連して、コロイド粒子の凝集体を対象とした研究が大きく進展した。以上のことから、本研究全体としておおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、原子間力顕微鏡を用いた構造と機能の評価を行う。ナノパイル構造の乱れには水平方向の乱れ(突起配列の不規則性)と垂直方向の乱れ(突起の高さのばらつき)の二つが考えられる。原子間力顕微鏡を用いた観察を行い、突起の位置と高さについて定量的な測定を行う。得られたデータを画像処理により自動的に解析する方法を確立し、乱れを統計的に評価する。 機能面に関しては、まず第一に滑落性の評価に取り組む。具体的にはカンチレーバーに台形プローブを用いたフォースカーブ測定を行う。フォースカーブの測定により、吸着力を定量的に測定することができ、静止摩擦係数を考慮することで滑落効果を確認する。また、ファンデアワールス力を仮定した引力を理論的に計算し、測定結果を解釈する。また構造不規則性が光学特性に与える影響を調べるために、球状のコロイド凝集体についての研究も継続して行う。
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Research Products
(2 results)