2020 Fiscal Year Annual Research Report
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18H01191
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
吉岡 伸也 東京理科大学, 理工学部物理学科, 教授 (90324863)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ナノパイル構造 / 撥水効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度の研究実施計画に基づき、セミの翅を含む複数の試料において撥水効果の評価を行った。そのため、静的接触角と動的接触角を測定するシステムを構築した。ミンミンゼミの翅においては、静的接触角は一般に超撥水と呼ばれるような150度を超える角度が観察された。その値をCassie-Baxterモデルを仮定して解析すると、水にぬれている表面の面積の割合が0.14程度となることが分かった。この値を再現するように、原子間力顕微鏡で観察されたナノパイル構造を解析すると、多数ある突起のうちで高い方からおよそ20%程度の突起しか濡れていないことになることが分かった(割合に関しては解析するモデルによって多少異なる)。すなわち、突起の高さのばらつきが、接触面積を減少させ、それにより撥水性が高くなっていることが示唆された。また、水滴の転落角の測定を行い、ミンミンゼミの翅においてはおよそ数度程度で水滴が転落することが分かった。この値は、比較対象として測定を行ったテフロンの30度程度よりもはるかに小さい。転落角を定量的に調べるために、動的接触角(前進角と後退角)を測定する方法についての検討を行った。液滴を移動させる方法、体積を変化させる方法、平面を傾斜させて実際に滑落させる方法などを検討し、測定対象や水滴の大きさに応じて最適な測定方法を見出した。測定された前進角と後退角の値を用いて、転落角の見積もりを行ったところテフロンに関しては測定値と矛盾しない値が得られた。また、前年度に引き続いて、コロイド凝集体の光学特性における不規則性の効果に関する研究を行い、光を反射するブラッグ面の傾き角度の大きさが凝集体の反射特性に大きな影響を与えていることを理論的に明らかにした。また、有限サイズの周期的な微細構造に関して、チョウの翅を題材に詳しい解析を行い論文として発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
実施計画通りに撥水効果の評価を進めることができた。特に、突起の構造と関連させて、性的接触角の高さを議論できたことにより、本研究の目的の達成に近づいたと考えている。また、並行して行っている不規則な微細構造が示す光学特性に関連しても研究が順調に進展し、学会発表を複数回行った。以上のことから、本研究全体としておおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は本研究の計画の最終年度となるため、これまでに行った研究を総括しながら不十分な部分を補強し研究成果をまとめるように研究を推進していく。実験的にはこれまで微細構造の観察と評価、機能面では滑落性と撥水性についてその評価を行ってきた。現時点で補強する予定であるのは、セミの翅における撥水性(転落角)の評価である。セミの翅においては滑落角が非常に小さく、測定精度を上げることで定量的な評価を行う。また、Cassie-Baxterモデルを構造のある表面に適用する際の限界は、必ずしも自明ではない。過去の文献を参照しつつ、セミの翅に突起構造関して妥当な解析方法を考案する。また、滑落性と撥水性とを併せて、表面構造の不規則性との関係を議論する予定である。
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Research Products
(5 results)