2018 Fiscal Year Annual Research Report
Nanobuble and solvation at electrochemical interface
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18H01806
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
中林 誠一郎 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (70180346)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小林 成貴 埼玉大学, 理工学研究科, 助教 (40595998)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ナノ気泡 / 標準水素電極 / 絶対電位 |
Outline of Annual Research Achievements |
気体が飽和した水溶液に、固体を漬けると固液界面にナノメータサイズの微小気泡が発生する。この事実は、21世紀初頭に発見された比較的新しい現象である。気泡径が小さいほど表面張力による押し潰し効果(ラプラス圧)が増加するので、気泡の力学的安定性は減少し、生成した気泡の寿命はマイクロ秒を超えない。しかしながら、多種多様な測定から、気泡寿命は1日以上と報告されているため、100万倍以上の齟齬が、理論と実験を隔てている。本研究では、白金単結晶を電気化学的に制御した原子的に再現性良く定義された表面を用い、表面からオングストローム領域を走査型トンネル顕微鏡(STM)で、ナノメーター領域を周波数変調原子間力顕微鏡(fmAFM)により観察し、原子配列の変化に伴う近距離・長距離の「水和構造」を原子・分子分解能で精査して、ナノ気泡の発生と安定性の謎の解明を試みた。原子的に平坦なPt(111)電極表面を、徐々に粗らし、極限粗面として白金黒電極を用いて、水素ナノ気泡密度を測定した。白金黒を3次元パーコレーションクラスター(DLA: diffusion limited aggregate)と仮定すると、フラクタル次元は、2.52 となる。白金黒電極は、2次元と3次元の中間に当たる性質を持っている。粗さの定量的制御を目指し、多結晶白金電極をORCサイクルして、ラフネスRを増加させた。水素ナノ気泡密度をRに対してプロットすると、気泡密度はRに対する単調増加、あるいは単調減少の振る舞いではなく、程々荒れた表面で極大を持つ事が判った。「程々荒れた鏡面白金多結晶電極」は、「Pt(111)と白金黒」に比べ、100倍水素ナノ気泡密度が高い事が判った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
熱力学的エネルギー基準は、標準状態で白金電極上の水素酸化還元反応のギブス自由エネルギー変化をゼロとする約束がある。この熱力学的エネルギー基準を定める水素電極反応に、水素ナノ気泡の寄与があるならば、水素の電気化学的酸化還元は2次元均一反応であるという暗黙の仮定が破綻し、固体・液体・気相の接する3重線の寄与によりエネルギー基準にズレが生じる。事実、光電子分光で測定したHOMO/LUMOエネルギーと、電気化学による測定エネルギーには、一定のズレが存在し、単極電位問題として長い論争の歴史を持つ。本研究では、熱力学的エネルギー基準の再定義が可能で、この論争の決着となる可能性が高い。白金黒電極は、2次元と3次元の中間に当たる性質を持っている。また、IUPACは、標準水素電極には白金黒電極を用いるように勧告している。これは、経験的に、水素電極電位の再現性が高い事実を反映したものであり、白金黒使用勧告の化学的根拠は明らかでない。標準状態(1規定硫酸、1気圧水素ガス)の白金黒電極に対して、多結晶白金の電位差をORCサイクル数に対してプロットして最大-10mVの飽和値を示すシグモイド変化を観測した。予備的な段階ではあるが、標準水素電極電位は、電極表面の荒れにより変化すると言える。この変化の原因は、水素ナノ気泡である可能性が高い。また、白金黒電極では、水素ナノ気泡は発生せず、Pt(111)電極と同様の再現性が担保されるという意外な結果を得た。白金黒はPt(111)と同様に良く定義された再現性の高い界面を持つならば、白金黒は極めて利便性に富んだ電極であると言わざるを得ない。白金黒の電位再現性の良さは、水素ナノ気泡のサイズに下限値があり、フラクタル構造(フラクタル次元2.52)の内部では気泡が安定に存在し得ない事を示唆する。気泡サイズの下限値の存在は、ラプラス圧を考慮すれば定性的に了解可能である。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの成果を総合すると、硫酸酸性水溶液中の白金電極上の水素ガス発生反応において、水素ナノ気泡が電極表面に形成されることは疑いがない。従来の水素電極反応では、この水素ナノ気泡の寄与を全く考慮していない。そこで、水素発生反応における水素ナノ気泡と界面溶媒和構造の寄与を明らかにすることを目指して研究を進めている。アルカリ性水溶液中での水素発生反応は、水分子の解裂を伴う高い活性化障壁を持つ遅い反応である。これは、酸性水溶液中の反応が、プロトンへの1電子注入を端緒とする反応であることと大きな違いがある。近年、遷移金属水酸化物や遷移金属硫化物を電極表面に担持すると、水分子解裂の活性化エネルギーが下がり、水素発生過電圧が大きく減少することが報告されている。この成果は、電気化学的エネルギー変換技術に関し、多大な寄与を果たす可能性が高い。そこで、本研究では、界面水分子の解裂を容易化する電極表面構造と界面水和層および水素ナノ気泡を主題として研究を進めている。現在までに、白金単結晶面における原子配列と水和層の測定を行ってきたが、再現性の獲得が難しく実験条件を再吟味している。一方、n型半導体であるZnOは、フラットバンド電位を境に、電位降下が電極内部・溶液と大きく異なる。現在、アルカリ性水溶液中でZnO原子配列を漸く測定できる状態になった。今後は、金属酸化物表面の溶媒和構造と、ナノ気泡をアルカリ水溶液中で測定する。また、金(111)表面に硫黄をサブモノレイヤーで吸着させると、水素発生の過電圧が下がるといわれている。これは、金・硫黄・水の3重線上で、水分子の解裂が促進されることを示唆する結果である。この事に鑑みて、当該3重線上の水和構造と、水素ガス発生によるナノ気泡生成の有無に着目した研究を進める予定である。
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[Journal Article] Atomic-Scale Imaging of Surface and Hydration Structures of Stable and Metastable Acetaminophen Crystals by Frequency Modulation Atomic Force Microscopy2018
Author(s)
Kobayashi, Naritaka; Maruyama, Mihoko; Mori, Yoichiro; Fukukita, Suguru; Adachi, Hiroaki; Takano, Kazufumi; Murakami, Satoshi; Matsumura, Hiroyoshi; Inoue, Tsuyoshi; Yoshimura, Masashi; Nakabayashi, Seiichiro; Mori, Yusuke; Yoshikawa, Hiroshi
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Journal Title
Journal of Physical Chemistry C
Volume: 122
Pages: 21983-21990
DOI
Peer Reviewed
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